【Dr.STONE】歌声に想いをのせて

voice.7 ページ7

「先生！！Aちゃんは！！」
「落ち着いてください石神さん」


百夜と医者の話す声に耳を傾ける。
幸運なことにAの命の糸は繋がっていた。
Aの両親は見つけた時にすでに手遅れだっただろうと言うほどに切り刻まれていたらしい。


「先生、それで、Aちゃんの容態はどうなんだ？」
「命に別状はありません。直に目を覚ますと思います。ですが、首に大きな傷があり、喉頭に繋がる神経に傷がついていて、片側の声帯が麻痺している状態です。
もう、以前のように話すことは出来ないと思います」


……その日Aは声を失った。


「……A」


あれから丸一日がすぎた。
眠るAの手を取る。いつもよりは冷たいがちゃんと温かい、上下に規則正しく動く布団と、すーすーっと寝息が聞こえる。少し顔色が悪いが綺麗な寝顔だった。


「千空、お前あれから寝てないだろ、ちゃんと休め」
「あぁ…」
「Aちゃんなら大丈夫だ、ちゃんと目を覚ます」
「あぁ…」
「千空…」


百夜の声が右から左に抜けていく。
分かっている。きっと目を覚ますことを。でも、起きた時に声が出せないと知ったらAはどうなる？想像しただけでも胸が押しつぶされそうになる。


「百夜、俺はこいつを一人にできねえんだ」
「そうか、俺の息子にここまで思われているAちゃんはすげえな」


からかうような口振りだったが、いたって真面目な顔をしている。改めて言われるとなんだかむず痒い気持ちになる。
少し照れくさくなり、空いている手がそわそわし始めたのでとりあえずAの頭を撫でた。
Aの身体がぴくりと動く。


「おいA！起きたのか！」
「おおお、俺先生呼んでくる！！千空任せたぞ！」


ナースコールなんてものの存在をすっかり忘れた百夜が病室から出ていった。



目を覚ましたAは自分の声が出なくなってしまったことをすぐに悟った。だが、泣くことも悲しむこともなく、ただ隣にいる俺を見つめてニコリと微笑んだ。

それが、俺にとっては余計に辛く思えた。

voice.8→←voice.6

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す