【Dr.STONE】歌声に想いをのせて

voice.37 ページ41

「私の名はコハク。どうやら私は君のことがめっぽう好きになってしまったようだ」

助け出した少女…コハクが突然口にした言葉。
え、好き…すき…ってあの好き？？
らぶ？らぶのこと？コハクさんが千空を好き？？

好きという言葉が頭の中をグルグルと駆け巡り、気がついたら私はその場から逃げ出していたのだった。
後ろから千空が呼び止めるような声が聞こえた気がしたが振り向くこともせず、ただ前に進んでいった。



「いや、ここどこだよ」



気がつくと私は迷子になっていたのだ。
辺りを見回し、丁度腰を落とせそうな場所があったのでそこに座り込再び考える。


だって好きって言ってたもん。私いたら邪魔かなあって思うじゃん。千空だって普段は恋愛は非合理的だーって言ってるけどあんな可愛い子に好きなんて言われたらもしかしたらちょっといいなーって思うかもしれないし。

いやでも、千空に限ってそんなことはないだろうけど、万が一っていうこともあるし…千空がコハクさんといい感じになったら私はもう千空と一緒にいられなくなっちゃうのか。

そしたら、私はどうなるの？千空がいない世界で一人で生きていかなくちゃいけないの？生まれてから今までのほとんどの時間を千空と過ごしてきた私から、千空が居なくなってしまう？


想像しただけで、自分の身体の半分を引き裂かれるような気持ちになり、心が痛くなった。


一旦落ち着こうと思い深く深呼吸をしてみる。
息を吸うことも吐くことも苦しく、まるでゴルフボールのようなものが喉の奥に詰まっているような、そんな感覚だった。


そもそも、私は千空のことをどう思っているんだろう。
好き、かどうか……わからない。
大切な存在ではある。私にとって家族同然の存在。
もしかしたら、私は一人になりたくないだけなのかもしれない。
あの事件以来、一人になることが怖くて、一人でいると絶望しか感じられなくて…ただ、一つ私を照らしてくれたのが、千空で。


ふうと一息付き、ふと空を見上げる。空はもうすっかり暗くなっており、そこにはかがやく星々に囲まれた月があった。


月は私を照らしてくれるスポットライト。君に照らされて歌うことがとても大好きで、小さい頃の私は月に対して依存的な気持ちを持つようになっていた。

そんな私はいつからか、その気持ちを月から千空へ向けるようになった。
私は千空に依存しているのだ。

月に向かって腕を伸ばしてみる。手をぐっと握り込み空気を掴む。


「…遠いなあ」

voice.38→←voice.36

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す