【Dr.STONE】歌声に想いをのせて

voice.24 ページ28

「ここはストーンワールド。まだなんの汚れもない楽園だ。人類を浄化するチャンスなんだ！君もそう思わないかい千空」
「全っっ然1mmも思わねえなあ。科学の力で人類全員！もれなく助けてやるよ」


司と話す千空の手が汗ばみ、少し震えているのが分かる。司を起こした時、司がライオンと対峙した時、千空が「やべえ」と呟いていたのを思い出した。
(こうなることを危惧していたんだね…)


「そして、Aさん。その男の子の妹はね、君のことが大好きだったんだよ。うん、『まるで人魚みたいだ、本当に人魚がいたらこんな感じなのかなあ』っとずっとずっと憧れていた」

千空の後ろに隠れる私を中心に捉えるような位置に移動する司。顔を上げると司と目が合う。

「妹だけじゃない、もちろん男の子も君が大好きだったんだ。君のその純粋で一途な歌声、性格、全てが汚れがない、完璧な純粋だと思ったんだ。」

司の目が怖い。いつもの優しい微笑みじゃない、獲物を見るような、何かを捕えるような瞳でこちらを見ている。

「[私はもう、歌えないよ]」
「うん、今はそうだろうね。でも、大樹が教えてくれたよ、君の喉は治っているんだろ？声が出ていないのは、そうだな、精神的な問題だ。違うかな？」

何も答えることが出来ない。私の返答を元々待つつもりなんてさらさらなかったのか、一呼吸置いた後に司は更に言葉を紡いだ。

「君は男の子の理想の人魚姫なんだよ」


全身に鳥肌がたった。気持ち悪いとかじゃない、ただただ純粋な恐怖が押し寄せてくる。怖い、本当に怖い。狂気をも感じる司の視線から逃れることができない。目が逸らせないのだ。

話すことが終わったからか、突然司はスっとこちらに向けていた身体を反転させた。
その隙に千空が、私のホワイトボードに何かを記した。


「[Aのことは俺が守ってやりてーとこだがな、俺も司にとっては邪魔者だ。こいつも若者は助けてえはずだから石化復活液のレシピを知るまでは無茶はできねえはずだ。]」
「[じゃあ、その復活液のレシピが司に対する切り札になるってことだよね]」
「[ああ、洞穴の奇跡の水のことだけはぜってー隠し通すぞ]」


ホワイトボードの千空の文字を消し、[わかった]と書こうとしたその時だった。背後の草が生い茂る道から、ドドドドと効果音が着きそうなぐらいの猛スピードで大樹が走ってきた。


「おーい！たまってたぞ洞穴に奇跡の水がー！」


(あちゃー…)
千空が物凄い変な顔に気づかない大樹だった。

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