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その次の日も私は、お弁当だけ持って昨日と同じ場所へ行った。
その人に会えるかもしれないという、一縷の望みをかけて。
ベンチには、デジャブかと思うぐらい昨日と同じ光景が広がっていた。
イヤホンをつけてスマホをいじっているその人の姿が、そこにあった。
「……あの、隣いいですか？」
勇気を振り絞って、話しかけた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
「同じクラスなんだから、敬語使う必要ないよな」
「そう、だね……」
相変わらずスマホを触りながら、その人が尋ねた。
「名前は？」
「名前？」
「うん。俺、自己紹介の時間いなかったし」
聞き取れるかどうか分からないレベルの音量で、うつむきながら答えた。
「Aって言うんだ。よろしく」
「うん、よろしく。私にも名前、教えて」
「佐倉想」
「サクラソウ？」
目の前の背丈の低い花の横にある看板が、目に入った。
そこには、「サクラソウ科 サクラソウ属 サクラソウ」と書かれていた。
「それ、本名だから。植物の名前答えたわけじゃない」
私が見ている看板に気づいて、そう言われた。
「サクラソウ、ね……」
「それはそうなんだけど、イントネーションおかしい。サクラソウじゃなくて、佐倉想だから」
「なるほど。佐倉くん、か」
それきり話すことがなくて、目の前で咲き乱れるサクラソウを眺めた。
ピンク、白、紫などのオーソドックスな色だけでなく、赤、黄色、青、オレンジまである。
この学校に、こんなきれいな場所があったなんて。
昨日の朝までは学校なんて死ぬほど行きたくなかったのに、今は死ぬほど行きたい。
だって、昼休憩の間だけでも、こんな天国みたいな時間が過ごせるから。
人って、短時間でこんなに変わるんだな。
お互い何も話さなかったけれど、その沈黙が昨日とは打って変わって心地よかった。
こうして、私と佐倉くんの時間は、始まった。
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