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パッと見上着しかないクローゼットの中をごそごそ漁っていると、奥の方にいくつかワンピースが吊るされているのが見えた。
誰のか分からないままそれらを全部出して、床に広げた。
ワンピースは、全部で三枚。
一枚目は全体が真っ黒で、真ん中にこれもまた真っ黒なリボンがついた、お出かけ用というよりも喪服に近いもの。
二枚目は紺色で襟に白いレースがついていて、真夏の灼熱地獄にはそぐわない暖かいセーター生地でできているもの。
三枚目は、さっきとは打って変わって水色の涼しげな生地でできていて、白いボタンやレースがふんだんに使われているもの。
どれを着ていけばいいかは、一目瞭然だ。
最初の二枚を元に戻してからライトブルーのワンピースを持って、洗面台の前に立った。
存在を忘れていたぐらい前の服だから、今の私には似合うのかどうかもいまいち分からない。
とりあえず着替えてみたけれど、JKというよりも顔面偏差値を大幅に下げた夢の国のプリンセスみたいな雰囲気になった。
でもこれ以上着ていく服が見つからなかったから、大人しく諦めることにした。
鏡をのぞき込んで、普段はそのままにしている寝癖を直して、何をするにも中途半端な長さの髪の毛をといた。
いつも通り黒ゴムを手に取ってからふと、一年前に買ったシュシュのことを思い出した。
白というより透明に近い、透けている生地に、キラキラ淡い紫色に輝くビーズが包み込まれていたものだ。
確か買うつもりなんてなかったのに、百均で一目惚れして衝動買いしたんだっけ。
シュシュだって、こんなところで日の目を見るとは思ってはいなかっただろう。
ポニーテールをしてシュシュをつけるだけなのに、普段やり慣れていないことをしているからか、苦戦した。
髪の毛が飛び出ている部分は、適当に何本か黒のアメピンを刺してごまかした。
時間をかけた割にはあまりきれいにはくくれなかったけれど、やり直す時間なんて全然なくて、財布などを入れた小さいカバンだけ持って家を出た。
時計を見る限り、時間ピッタリか、もしかしたら待ち合わせ時間に若干遅れてしまうかもしれない。
髪の毛が崩れてしまいそうで、どうしても早歩き以上の速度で進めなかった。
何とか駅に着くと、近くのベンチに座っている、見慣れた人影が見えた。
「佐倉くん！」
佐倉くんが笑顔で立ち上がって、手を振った。
私も手を振り返しながら、佐倉くんの方へ駆けていった。
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