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紬と二人で、夜道を帰った。
「初めての試合、どうだった？」
「楽しさと厳しさの、両方が味わえたかな」
「よかった。また一緒に行こ」
「うん」
初めての試合はすごく興奮したし、かるたをやっているんだ、という実感がありありと湧いてきた。
それと同時に、初試合とはいえ年下に負けてしまったという悔しさもあった。
かるた歴は同じぐらいなんだから、努力すれば勝てるかもしれない。
新たな目標を胸に、私はかるたの世界に一歩踏み出した。
夏休みの終わり頃、部活帰りに見覚えのある人影が見えた。
「佐倉くん？」
「A？久しぶり」
「久しぶり。部活？」
「うん。さっき部活終わったところ」
二人で帰るのは、夏休み直前にカフェに行った時以来だ。
約三週間ぶりに会った佐倉くんはだいぶ日焼けしていて、前よりも大人びて見えた。
「A、明日暇？」
「明日？暇だよ」
確か部活もなかったはずだから、私は即答した。
「俺も明日暇だから、どこか行かない？」
「いいよ。どこ行く？」
「行きたい場所ある？」
「行きたい場所か……。友達と遊びに行ったことないから、何あるか分からないんだよね」
「色々あるよ」と佐倉くんがスマホのGoogleマップを見せてくれた。
「近くに遊園地とかあったっけ？」
「あるよ。遊園地、行ったことない？」
「記憶にある限りでは、ないかな」
「マジで？行く？」
「行ってみたい」
「じゃあ、朝九時に最寄り駅集合でいい？」
「うん。楽しみ」
「俺も」
家に帰ってからも、ワクワクとドキドキが止まらなかった。
「お母さん、明日遊びに行くからお小遣いほしいな」
「遊びに行くの？誰と？」
「友達」
「ふーん。そんなの初めてだよね。まあ、初めてだからいいか。……はい」
お母さんが「これで足りるでしょ」と、野口英世三枚を財布から取り出した。
「ありがとう！」
「お母さん明日も早いけど、いってらっしゃい」
「いってきます」
思ったよりお母さんが簡単に承諾してくれて、拍子抜けした。
娘に友達ができたのが、そんなにうれしいんだろうか。
晩ご飯を食べている時も、宿題をしている時も、お風呂に入っている時も、ずっと明日のことを考えてしまう。
目覚ましを普段より早めにセットして布団に入ったけれど、案の定目が冴えて全く眠れなかった。
うれしさと緊張が入り混じった、不思議な気持ちになった。
遊園地なんて、私とじゃなくて戸川くんとでも行けるはずだ。
佐倉くんの意図は分からなくても、私を誘ってくれたことが、心の底からうれしかった。
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