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札を一人二十五枚ずつ取ったら、まずはそのうちの三枚を、畳一マス分開けて並べた。
自分の一番上にある札と相手の一番上にある札とは、畳三マス分開けて並べていた。
残りの札を表にして、機械が作業をするかのようにさっさと色々な場所に置いていた。
腕二本分の長さに合わせて距離を測って、札を畳の目に沿ってきれいにしていった。
暗記時間中は、しばらくすると席を立ってスマホを見る人も、爪を切っている人も、ずっと座ったままの人もいた。
張り詰めた空気の中、めいめいが自分だけの世界を作っているように思えた。
私が残り時間が二分だということを伝えると、みんな一斉に札に向かって手を伸ばし始めた。
でも札には手を触れずに、そのまま手は畳を叩いていた。
いきおいよく手を伸ばしていたかと思えば、ゆっくりと札を囲うようにしていたり。
何をしているのか見当がつかなかったけれど、何か意味のある重要なことをしているのだということだけは感じられた。
相手と私の方にお辞儀をしてから、試合が始まった。
私にお辞儀してるわけじゃなさそうだけど、どこに向かって頭を下げているんだろうか。
そっと白いボタンを押すと、いきなり大きめの音声が流れ始めた。
慌てて紬の方を見ると、微動だにせず札を真剣に見つめていた。
音声がいったん途切れそうになった頃、みんなが一斉に体を起こして戦闘態勢に入った。
訪れた、束の間の静寂。
「——……」
次の音が聞こえたかどうか分からないうちに、同時に畳を叩く音が聞こえた。
驚いて、ビクッとしてしまった。
今の早業、何？
一体この一瞬で、何が起こったの？
紬をしっかり見ていたはずなのに、札に伸ばした手の動きは速いなんてレベルじゃなくて。
何をしていたかなんて、到底見えなかった。
紬は真っすぐに左手を挙げて、右手で取った自分の近くにある札を、先輩の目の前に丁寧に置いた。
しばらく考えるような素振りを見せた後、先輩がそれを受け取って札と札の間にそれを配置した。
紬がすっと、一切音を立てずに手を下げた。
その一連の流れがきれいすぎて、一生見ていたいような気持ちになった。
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