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その次の日、私は約束通り紬と一緒に部室に行った。
部室に誰も人がいないのを見て紬が、「じゃあ先輩が来るまで、決まり字のことちょっと教えよっか」といった。
「決まり字？」
「そこまで読まれたらその札だと確定できる、上の句の何文字かのことなんだけど、それ覚えないと早く取れないんだよね。ややこしいのとか長いのとかあって、覚えるのだいぶ苦戦したな〜」
「難しそう……」
「慣れだよ、慣れ。あっ、ちょっと待って」
紬が分厚い冊子のようなものを、私に渡してくれた。
「これ、使わないからあげる。ここの上に書いてるのが決まり字で、この文字を見て、下に書いてる下の句が浮かぶようになったらOK」
「覚えるコツってある？」
「う〜ん……、何回も繰り返してやるってことかな。後は、調べたら語呂合わせとか出てくるよ」
「語呂合わせとかあるの？」
「例えば、『憂かりける〜』の札だったら決まり字は『うか』なんだけど、下の句が『はげしかれとはいのらぬものを』だから、その『はげ』とつなげて『うっかりはげ』とか」
「うっかりはげって……。面白いね」
「『み吉野の〜』だったら『みよちゃんのふるさと』とか色々あるんだけど、調べてみたらいいかも」
「ありがとう」
「あとこれ、家で使ってくれたらいいよ」
箱を開けてみると、中には百人一首が入っていた。
「さしもしらしなもゆるおもひを」と書かれた札を、手に取ってじっくりと眺めた。
部活見学に行った時に触った札よりも薄くて、しかも札の上から赤で「かく」と文字が書いてあった。
「この赤い文字が、決まり字。あんまり覚えてなくても読まれた文字が書いてる札を探すだけだから、これ使ったら試合できるよ」
「なるほど。すごい！」
「こんにちは〜」
「こんにちは」
真子先輩が入ってきて、「もう来てたんだ！練習熱心だね」と驚いた表情で言った。
「今日、紬ちゃんと試合やっていい？」
「はい。お願いします」
「Aちゃん、だよね？今日も見る？」
「はい。紬の試合、目の前で見たいです」
「いいけど、いつもより緊張しちゃう」
紬が、不安そうな表情を見せた。
「頑張って！」
「うん」
他の先輩たちも次々と入ってきて、さっさと着替えて組み合わせを決め、札の箱を開け始めた。
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