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入学式の後は学活で、自己紹介をやるらしい。
「そこ、誰だ？」
先生らしき人が指さした方向を見ると、私の隣の席だけ誰もいない。
「そろそろチャイム鳴るし、始めようか」と言いながら、先生は教卓の前へ戻った。
「1年B組を担任する、古賀良彦です。サッカー部の顧問で、担当は体育です。1年間よろしく」
体育の先生には嫌な思い出しかないけれど、この先生は優しそうな雰囲気で、少しほっとした。
「じゃあ、出席番号1番から、自己紹介してもらおうかな。名前と部活と、後は趣味とか自由にお願い」
そうだ。
自己紹介という、新学期一番の難関が待ち構えている。
ここで失敗したら高校三年間を台無しにしてしまうことなんて、簡単に想像がついてしまう。
すぐに1番の子が立ち上がって、自己紹介を始めた。
「青羽紬です。部活は競技かるた部です。趣味は音楽を聴くことです。よろしくお願いします」
まるで準備してきたかのようによどみなく言葉を紡ぐ彼女を、啞然として見つめた。
椅子を引く時ふわっと宙を舞ったポニーテールが、クラクラするほど眩しかった。
気づけばあっという間に、私の順番が回ってきてしまった。
薄っぺらくて当たり障りのないことを適当に言ってから、さっさと椅子に座った。
緊張と恐怖が収まらなくて、その後の自己紹介が耳に入ってくるはずもなかった。
ひたすら机の木目とにらめっこしたまま1時間やり過ごした後は、昼食の時間だった。
みんなが当たり前のように何人かで固まってお弁当を持ち寄っている中、私は一人で教室を出た。
行く当てもなく、お弁当を持ったまま校内を彷徨う。
前方に貼ってある校内マップが目に入って、その前で立ち止まった。
私が求めているのは、自由に出入りできて、静かで、誰もいなくて、お弁当を食べられそうなところ。
一通りマップを見ると、木や花が植えられているところの近くに、「工事中」と書かれている場所があった。
わざわざ工事してるところの周りになんか、誰も来ないはず。
私はお弁当を持って、マップの記憶を頼りに道を行った。
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