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Aside
目の前に広がるのは、ほとんど散ってしまった桜と曇り空。
何も入っていないのにやたらと重いカバンを背負って、しばらくそのまま立ち尽くした。
どんよりとした気持ちで、ペンキの剥げた校門をくぐった。
「帰りたい……」
思わず、本音がこぼれた。
カタツムリ顔負けのペースで歩く私の横を、親子連れが何組も通り過ぎていくのが見えた。
入学式に親が来ていないのって、私だけなのかも。
別に来てほしいわけじゃないけど、自分だけ1人で歩いているのがものすごく目立って嫌だ。
重たすぎる足を引きずって、やっとのことで体育館に着いた。
目立たないように一番後ろの列の端っこの席に着いて、入学式の開始を待った。
来た時間は遅かったから、私の後に来る人はいないだろう。
少なくとも式の間は、このまま誰にも気づかれずに済みそうだ。
そんな私の安直な考えは、5分後に打ち破られた。
国歌斉唱が終わった直後、真後ろのドアが開く音とともに、バタバタと足音が聞こえてきた。
「ここいい？」
好きな声だった。
突然の出来事に頭が真っ白になっていると、トントン、と遠慮がちに肩を叩かれた。
顔も合わせずに、慌てて首を縦に振った。
「ありがとう」とその人が私の隣に座った。
聞いているだけで馬鹿らしいような校長先生の話の間、横目で隣の人をチラチラ見てみた。
立ち姿はスラっとしていて、雑誌に出てくるモデルさんみたいだった。
私より、20cmは高いだろうか。
しかも、一目で分かるルックスのよさ。
入学早々こんなイケメンが隣にいるなんて私、前世で何か徳積んだっけ。
見惚れているうちに、気づけば「新入生退場」というアナウンスが聞こえてきた。
退場する時もずっと背中を凝視していたのに、体育館外の人ごみに紛れてその人を見失ってしまった。
新クラスを見てキャーキャー騒いでいる生徒たちから離れて、大きな桜の木の下へと避難する。
それにしてもさっきの人、本当にカッコよかった。
あんなイケメンな人、人生で初めて見たかも。
新入生が280人もいたら、1人ぐらいこういうカッコいい人がいてもおかしくはないのかな。
——「ここいい？」「ありがとう」——
あの心地よい低音を反芻すると、自然と笑みがこぼれる。
新入生は多いから、もう二度と会えない可能性の方が大きいだろう。
でも久しぶりに、生きててよかったと思えた。
こんな私だけど、もう少しだけ。
本当にもう少しだけ、頑張ってみようかな。
みんなが徐々に教室へと向かい始めた頃、私はようやくクラスを確認して、1年B組へと向かった。
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