その瞳が全ての答え2 ページ19
暫くしてAがシャワーから上がり湯上りで火照った顔のままバスローブ姿なのを確認すれば、ゾムは引き寄せられるようにベッドから立ち上がってそっとAの手を引いた。
ベッドに戻り優しくAをベッドに押し倒し覆いかぶさると、徐にAの細い両手首を片手で一掴みにしてAの頭の上で固定し恥じらう赤い双眸を見つめて愉快そうに目を細めた。
愉しそうに、いっそ嘲笑するように口角を上げるゾムにAは困惑したように眉を下げ、そんなAを見下ろしてゾムは話始めた。
「あいつはな、俺に欲を求めないんや。物欲も、欲望も、自分の我儘でさえも全部後回しにして最後の最後にやっとほんの少しの希望を言うだけなんやで。あいつの赤い眼は、いつだって俺が望むことを叶えるために見つめてくる。俺がどんな気持ちで、どうしたくて、何を求めているのかを知ってそれを頑張って叶えようとするんや。健気で、いじらしいやろ？」
最後に「お前みたいな浅ましい奴と違って」と付け加えれば、Aだった女は目を見開き、Aであれば絶対にゾムに向けない鋭い視線でゾムを睨み上げた。
女が今更抵抗しても上に乗っかっているゾムを振りほどけず焦りが表情に浮かぶ。
その表情を見て、ゾムは更に口角を上げて空いている手で女の細首に手をかけた。
「なぁ、その顔も、体も、あいつを真似て整形したんやろ？ご苦労やな、そんでお粗末や。俺があいつを間違えるわけなんてない。あいつはよう無茶するけど、考えなしの馬鹿じゃない。何の準備もなく、誰も護衛も連れずにこんな夜を歩くわけがないんや」
A自身が傷つくことでゾムの心も傷つくことを、ゾムはきちんと理解している。
だからこそ、芯のある理由なしにAが夜の街を、それも薄暗い道をトリシアすら連れずに一人で歩き自身を危険に晒すわけがないとゾムは知っていた。
ゾムに首を絞められながら女は藻掻き、Aへの悪意をぶつければゾムはきょとんと目を瞬かせてからつまらなさそうに目を伏せた。
「…お前が言うあんな普通な女を、お前はよく知らないんやな。確かにあいつはどこにでもいる普通の女の子や。けど、守りたいもんのためなら剣を取り、大切なもんのために自分の命さえ天秤にかける危なっかしい奴なんやで。自分の押し殺し方は知っとるのに、頼ることを知らんから、俺が守ったらなあかんねん」
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2021年4月14日 3時
