その瞳が全ての答え1 ページ18
その日、ゾムは他国への潜入捜査の帰国路であった。
数日間かけて機密情報を抜き出し、W国の総統が今か今かと待っている戦争の火種を持って我々軍基地へと夜道を歩いていたゾムは薄暗い路地の中から急に現れた人影に足を止めた。
その人影もゾムの存在を認識し、一度足を止めると足早に駆け出す音が静かな路地に響く。
「ゾムさん！」
飛び込むようにゾムに駆け寄った、その人影であるAに目を見開きゾムは思わずAの頬に手を当てて顔を上げさせた。
微かに潤む赤い双眸がゾムを捉え、何かを訴えるようにきゅっと細まった。
「…どうしたん？夜にこんなとこ出歩いとったら危ないで」
ゾムが眉を下げてそう問えば、Aは目を伏せてゾムの服の裾を掴みながら微かに震える声で言う。
「嫌な予感がして、居ても立ってもいられなくなってしまったんです…」
言いながら、頬に当てられているゾムの手の上から自身の手を重ね上目遣いに見上げた。
「…今日は、一緒にいてもいいですか？」
縋るようなか細い声に、ゾムはぴくりと眉を揺らしたがすぐにAの腰に手を当てて黙って夜の街を歩く。
目的の場所に着いたゾムが慣れた手つきで部屋を決めてその部屋にAを連れ込んだ。
部屋には言居てドアを閉めてちらりとAを振り返れば、赤い双眸が恥じらいの中に期待するような色が見えた。
その色をじっと見ていたゾムは手を離して優しくAに声をかける。
「シャワー、浴びてきてや」
所謂そういったホテルの部屋に入ったゾムの言葉に、Aは逡巡迷うような素振りを見せながらも頬を朱に染めそそくさとシャワー室に消えて行った。
その間にゾムは広いベッドの縁に腰かけ、耳元のインカムの電源を付けて通信を繋げた。
「大先生」
「…うん？ゾム？どうしたん」
「今日遅くなるから、グルッペンに言っておいてや。あと迎えよろしく」
「迎え？何でそんな…ゾム？」
休憩中だったのか、若干間延びしたような鬱先生の声が急に低くなり、通信越しですらゾムは圧を感じた。
それを分かっていて、ゾムは敢えて口角を上げながら鬱先生に念押しを告げた。
「よろしくな？大先生」
「……あとでちゃんと説明せぇよ」
今自分がいる場所が鬱先生に伝わったことを察したゾムはからからと笑いながら通信を切らずにいた。
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2021年4月14日 3時
