伝えたい言葉は一つだけ4 ページ14
女癖の悪い鬱先生の名前を出されてがばりと顔を上げたゾムが名残惜しそうにAから離れれば、Aはそんなゾムの手を取って微笑んだ。
「護衛、よろしくお願いします」
「…当たり前や。誰にも譲らへん」
執着すら感じる熱の籠った若草色の双眸は、Aの心を火照らせる。
幸せそうに、嬉しそうに、無邪気に笑みを零すAにゾムも満足そうに目を細めてAをエスコートした。
問題なくS国に入国し、パーティ会場についたグルッペンは当初の予定通りAを連れて会場内を歩いた。
あくまでもAはX国の外交担当の貴族だと偽りAもグルッペンの意図通り振舞えば、王族として表に立つことがないAを見たことがないS国の貴族たちは皆グルッペンの言葉を疑うことなく信じた。
グルッペンとAの傍にはトントンが立ち、少し離れたところでゾムが周囲を警戒していればゾムの顔立ちに惹かれた令嬢たちに囲まれているのをAは見た。
「何方かの警護ですか?」
「お暇でしたらお話しいたしませんか?」
「パートナーはいらっしゃらないのですか?」
友好国の、それも貴族の令嬢たちに手荒な真似は出来ず、だがまともに相手をするつもりもないゾムは無表情に令嬢たちの言葉を聞き流していた。
そしてさきほどから見ているAに視線を戻せば、Aがあくまでグルッペンの公的でのパートナーと知って爵位持ちの男やその令息たちに囲まれかけているのを見た。
「さすがはW国の総統閣下ですね、こんなにも美しい人をパートナーにできるなど」
「これで私的でもパートナーであれば付け入る隙もありませんな」
「リードしますので、このあとのダンスにお誘いしても?」
今までX国で悪意を籠めながらAを見ていた貴族や王族たちとは違い、それと比べればちょっとした下心などは可愛いものだが、それでもAが求める熱はここにはない。
グルッペンの一歩後ろで完璧な笑顔を浮かべ相手を不快にさせないように対応するAに、グルッペンは内心舌を巻きながら今度Aの望みを聞こうと決めた。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2021年4月14日 3時