伝えたい言葉は一つだけ2 ページ12
さらにいつものパーカーは封印されたのか、シックな深緑のスーツに身を包んでおり、鍛え抜かれた身体の線を浮き彫りにさせている。
初めて見るその姿に、Aが言葉もなく見惚れればグルッペンはそんなAを指さして男の機嫌を取ろうとした。
「その姿、Aには好評みたいだが?」
振り返った若草色の瞳が真っすぐに見つめているAを捉えれば釣りあがっていた眦が微かに下がったのをグルッペンは確かに見た。
途端に拗ねたような表情をするその男の傍まで近づいたAはまじまじと男を見つめてふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「素敵です、ゾムさん」
Aにそう言われてしまえば、ゾムはグルッペンに向けていた怒りを鎮めるしかなくぐっと堪えて、だが落ち着かないのか視線を彷徨わせた。
「…ほんまに?変やない?」
「とても素敵です。いつもよりゾムさんの顔がよく見えてちょっと緊張しちゃうくらいです」
「なんや、それ。俺の方がこんな格好で落ち着かんのに」
「いつだってゾムさんは恰好いいですからいつものゾムさんも好きですけど、いつもと違う姿もとても新鮮で素敵です」
いつもとは違うゾムを、それもいつもは隠れてあまり見えないゾムの瞳や顔が見えて嬉しいのか遠慮なく褒め堪能するようにゾムだけを見つめるAの視線がくすぐったくてゾムはつい片手でAの両目を覆った。
「ゾムさん?」
「…あんま、見んといて。さすがにそこまで見られたら、恥ずかしいわ」
耳を赤くして眉を顰めたゾムが恨みがまし気にグルッペンを見やるが、グルッペンは盛大に噴き出すのを堪えるのが必死だった。
最終的にはゾムから殺気の籠った視線を向けられれば、仕方ないとばかりに肩を竦める。
「外交の場で、さらにパーティだゾ?いつもはお前はを連れて行かないから知らないかもしれないが、さすがにあのパーカーは悪目立ちが過ぎる」
「やからって、ここまでせんでも…」
「俺の優秀な部下を着飾って何が悪い」
胸を張って自分は何も悪くないと主張するグルッペンにゾムは開いた口が塞がらず言い返す言葉を探していると、今度は静かに総統執務室のドアが開いてトントンが呆れたように緋色の双眸でグルッペンを見遣った。
「ゾム、こいつは本気やで。自分が気に入ったもんはしまい込むんやなくて見せびらかす質やからな」
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2021年4月14日 3時