42.雨の夜 ページ8
「何やってんねん」
「…村上、さん？」
「雨に濡れながら泣いてるイタイ女がおるわーって思ったら、Aやんか」
言い返す力もなくて、唇を噛んでうつむく。
「ほら、はよ立って。雨強くなってきたで」
「…なんで、こんなとこに」
「お前に断られたから一人で飲んでてん。
で、すぐそこのマンション今住んでるとこ」
村上さんの言葉どおり、雨足が強くなってくる。
「どうでもええから、とりあえず走れ！」
手を引っ張られて、マンションまで走って来た。
エレベーターホールの前で、手を振り払う。
「すみません、もう大丈夫ですから。
傘借りてもいいですか？」
「貸すよ、貸すけど濡れてるからとりあえず拭かな風邪引くで」
でも部屋に上がるのは、ちょっと。
「ほら、膝も血出てるし。
とりあえず行こ」
言われて気づいたけど、膝をすりむいたみたいで血がにじんでいる。
「でも…」
「あのなあ。こんなズタボロな女、どうにかしようと思うほど鬼畜とちゃうわ！」
「…ズタボロな女って」
「誓う。指一本ふれへん。約束破ったら明日店中に言いふらしてかまわへんから」
その言葉に押されて、部屋まで来てしまった。
家具付きのワンルーム。
玄関で立ちっぱなしの私に、村上さんがばさっとバスタオルを投げてくれる。
「かたくなやなー、俺はコーヒー飲むけど。
お前はいらんの？」
ポットから注がれた熱いお湯が湯気をたてている。
コーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「飲みたい…」
「入れたるから。飲んだら送ってくし」
私はブーツを脱いで、小さな丸テーブルの前に座った。
「ほれ」
水色のマグカップを渡されて、コーヒーを一口飲む。
「おいし…」
冷えた体にしみわたっていく。
ザアザア、雨の音が響いている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1353人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
