彼女と彼の誕生日の話 ページ42
結局、マダムをお見送りしたのは20時を過ぎてからだった。
途中で雅紀くんには遅れるって連絡したら、いいよいいよ！って言ってくれたけど。
フレンチは郊外にあるので今から行っても絶対に間に合わないから、キャンセルした。
どうしよう、せっかく考えた誕生日プランがぐちゃぐちゃだ。
重い足取りで店を出ると、雅紀くんがガードレールにもたれて立っていた。
「お疲れさま！」
慌てて駆け寄る。
「雅紀くん！
遅れるからあったかいところで待っててって言ったのに」
「うん、でもソワソワしちゃって。
ここで待ってたらすぐ会えるし」
そうっと手を握ると、びっくりするくらい冷たい手。
「風邪、引いちゃうよ」
「大丈夫！俺めったに風邪引かないから！
あ、バカじゃないよ？」
「バカだよ……」
ひっど！って笑う雅紀くん。
「ごめんね、フレンチ間に合わなくてキャンセルしたから何か違うもの食べに行こっか」
だけど、今日はクリスマスイブ。
フレンチだけでなくちょっと洒落たイタリアンや洋食屋さん、目に入るお店に手当たり次第入ってみたけど。
「すみません、御予約のお客様でいっぱいなんです」
「申し訳ありませんが、満席で2時間はお待ちいただかないと……」
どこへ行ってもそんな言葉ばかり。
もう21時に近い。
「……ごめんね」
自分の段取りの悪さが悲しくなる。
「本当はフレンチ食べてイルミネーション見に行こうと思ってたのに」
「……あ！」
「え？何？」
「じゃあさ、Aちゃんち行ってもいい？」
「うち？うん、いいよ。
そうしよう、私ご飯作る！」
そうだよ、もっと早くそうすれば良かった。
だけど最寄り駅で材料を買いにスーパーに寄ろうとしたら、ぐいっと手を引っ張られた。
「雅紀くん、材料買わなきゃ」
「いいよ、Aちゃん仕事頑張って疲れてるし」
「でも……」
「俺ラーメン食いたい」
「え⁈」
「『みんみん』行こうよ」
『みんみん』は昔ながらの中華そば屋さんで、うちのすぐ近くにある私と雅紀くんお気に入りのラーメン屋。
「だって今日誕生日なのに」
「誕生日だから。俺のリクエスト聞いて？」
気を遣ってくれてるんだろう、と思う。
雅紀くんらしい。
「……わかった」
雅紀くんは、鼻歌を歌いながら『みんみん』の扉をガラッと開けた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
