彼女と彼の誕生日の話 ページ40
「え？なんで？！」
24日の早朝、出勤前にケーキを作っていた私はオーブンを開けて絶句した。
スポンジケーキが全然ふくらんでない！
薄いし固いしおせんべいみたいだ。
粉を計りまちがえたのかもしれない。
時計を見るともう7時を過ぎていて、今から焼き直している時間はなかった。
仕方ない、ケーキはやめよう。
でも夜は、人気で予約が取れなくて有名なフレンチに友達のツテを頼って予約できたし。
きっと雅紀くんも喜んでくれる。
雅紀くんがたくさん笑ってくれる誕生日に、なりますように。
ううん、そんな誕生日にしてみせる！
「とりあえず仕事！頑張ろう！」
私は気合いを入れなおして、仕事に向かった。
12月の美容室は慌ただしい。
というか殺人的スケジュールだ。
本音を言えば今日は休みたかったけど、とてもそんなことを言える雰囲気じゃなかった。
嬉しいことに、指名してくれるお客様もこの一年で少しずつ増えていた。
けど、今日は18時以降は予約を入れないようにしていて、早めに上がらせてもらうことにしている。
今月は定休日以外は休みがほぼなかったから、店長も大目にみてくれた。
予定どおり、最後のお客様を17時半にお見送りするために一緒に店の外に出る。
「ありがとうございました」
「いつもスタイリングしやすくて助かってます、また来ますね」
満足そうなお客様の声に、私は嬉しくなって深いお辞儀を返した。
さてと。
今から片付けてお店出たら、雅紀くんとの待ち合わせ余裕で間に合う。
きびすを返して、お店に戻ろうとしたら。
「ありすちゃん」
ん？この声は。
「大野さん？」
ふんわり笑うその人は、ヤマカゼサトシこと大野さんだった。
後ろに編集者の松本さんもいる。
今日は追いかけられていないみたい。
「どうしたんですか、その格好」
松本さんは仕事柄いつもスーツを着ているけど、大野さんはカジュアルな服装しか見たことないのに今日はタキシードを着ている。
蝶ネクタイが可愛らしいけど、どこか着せられてる感が否めない。
「よくわかんねんだけど、『Attack it！』が賞もらってね？
今日授賞式なの」
大野さんが口にした賞は、たぶん漫画の世界ではかなり権威のある賞だ。
「おめでとうございます！」
「ありがと」
「Aさん、すみませんがお願いが……」
松本さんが言いにくそうに言った。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
