Siesta 3【Masaki.A】〈完結〉 (ページ35)

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彼とプロポーズの話 -side.N- ページ35

俺が花に一度目のプロポーズをしたのは、フランスから帰って来てすぐのことだった。

パリで一緒に住んでいたし。

日本に帰って来て、当然のように一緒に住む部屋を探そうとした俺を花が止めた。

「このままずるずる同棲したくないの」

「ずるずる？」

ずるずるも何も、花がいない生活なんて俺はもう考えられなかったから。

「ちゃんとした方がいいなら、さ」

花がそれで納得するなら。

「結婚しよ」

でも花は首を縦には振らなかった。

「そういう問題じゃなくて」

「じゃあどういう問題？」

「甘えたくないの、カズに。
コンテストで一位とって、自分の店持つ夢、自分の力でちゃんと叶えたい」

フランスで修行中はアルバイト程度しかお給料がもらえなかった花の家賃や生活費を、俺が持っていたことを、花はいつまでも気にしていた。

花のそゆとこも、嫌いじゃないけど。

甘えてもいいじゃん。

ってかさ、サラッと言ったけどあれ、一応プロポーズなわけで。

断わられるのって、けっこきついんですけど。

はあ、って思わずため息。

「ごめん……」

花が申し訳なさそうに俯く。

「ほんとお菓子のこととなると、頑固っつーか、融通がきかないっつーか」

「ごめん、なさい」

「ま、いーよ」

ほれた弱み、ってやつ。

「その代わり、絶対一位になれよ。
いつまでも待たせないでもらえます？」

それが、3年前の話。

それから毎年、花はコンテストで上位になってはいるものの。

なかなか一位になれず。

俺のプロポーズも、宙ぶらりんなまま。

相葉さんは空気を読まず、
「花ちゃんと結婚すればいーのに！」
とか言ってくるし。

いやね、別にいんだよ。

俺もともと結婚願望なかったし。

紙切れ一枚のことだし。

でも、さ。

「カズ」って呼ぶその声も。

夢を追いかけて走るその背中も。

キスしたら今だに赤くなるその頬も。

見てるこっちが幸せになるその笑顔も。

全部、俺だけのものにしたいんだ。

今も、これからも。