Siesta 3【Masaki.A】〈完結〉 (ページ33)

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彼と漫画家の話 -side.M- ページ33

「ご愁傷さま」

「ストレス発散したかったらいつでも言えよ？」

「体力勝負だな」

ヤマカゼサトシ、こと大野智の新しい担当が俺に決まった時、同僚達から言われた言葉。

前作でファンの心をつかんだヤマカゼ先生の「Attack it ! 」は、連載開始当初から話題を呼び。

単行本は飛ぶように売れた。

出版社で働く俺達にとって、そんな大ヒット作を編集者として担当できるのは、本来名誉なことなのだ。

描くのはもちろん漫画家である彼だけど、編集者として一緒に作品を作っていけるわけで。

それなのに、先生の担当を誰もが嫌がり、今まで担当していた編集者も絶対に長続きしないのは、理由がある。

「初めまして、松本潤と申します。今日からヤマカゼ先生を担当させていただきます」

「どーも。よろしく」

「ではさっそくですが、原稿の進捗具合をお伺いします」

「しんちょく？ぜんぜん」

「全然？ではネームを拝見します」

「だから、まだぜんぜんできてない」

ヤマカゼ先生が連載しているのは週刊誌だから、毎週締め切りがある。

ちなみに今週の締め切りは明後日。

普通の作者なら、原稿の下書きも終わってペン入れをしている段階だ。

それなのに、原稿に描く前の話の流れを考えるネームすらできていないなんて。

皆が彼を担当したがらない理由その1。

とにかく原稿が遅い。

「ではとにかく、ネームを作成してください。
私はここで待たせていただきます。
もし話の展開で迷うことがあればお伺いします」

「…はーい」

そう返事をすると、イスをキイキイ言わせてくるくるまわりながら、しばらく何もしなかった。

俺は何も言わず、じっと待つ。

と、先生はくるくるまわっていたイスを止めると、デスクに向かって何か描きはじめた。

30分も経たないうちに、はいっと渡されたそこにはネームが描かれていた。

「見といてね、おれトイレ行ってくる」

渡されたネームに目を通す。

すげえ。

予想を裏切る展開に、胸を打つセリフ、次につながる伏線。

これをあの画力で描かれたら。

「すげえ。やっぱり天才だ」

ふ、と気づいて時計を見る。

戻ってくんの遅くね？

…まさか。

立ち上がってトイレを見にいくと、もぬけの殻だった。

「くっそ、やられた！」

理由その2。

逃亡癖があること。