52.路地を走る ページ18
雅紀くんとは別に。
ちゃんと言葉で伝えないとだめな人が、もう一人いる。
その日仕事が終わって帰る村上さんを追いかけた。
「村上さん」
「おう、お疲れ」
「私やっぱり雅紀くんが好きです。
雅紀くんじゃないとだめなんです。
だから村上さんの気持ちには応えられない」
一息で言うと、村上さんが苦笑いした。
「しゃーないな。
俺もフラれるの分かってて、先延ばしにしてごめん」
「分かってた？」
「ストール返した時、俺が挑発するようなこと言っても。
『Aちゃんはそんなことしない』って全然相手にされんかった」
やっぱりそうだったんだ。
雅紀くんは。
家に行ったことを責めてた訳じゃない。
「お前の彼氏はバカみたいにまっすぐやな」
そうだよ。
雅紀くんはバカみたいにまっすぐで。
いつもそこにいてくれる。
いつもそこで笑っていてくれる。
「訂正したるわ」
「何をですか？」
「お前とは合わへんって言ったこと。
Aみたいにいらんことあれこれ考えるやつには、あれくらいバカ正直な人がお似合いや」
村上さんが目尻を下げて笑ったので、思わず私も笑顔を返した。
「そういう顔、しとけ」
「…はい」
「もし泣かされたら、大阪まで来い。
うまいたこ焼き食わしたるから」
村上さんと別れて、私は走った。
細い路地を、今日は全速力で。
深緑の扉を開けると、そこには。
「いらっしゃいませ」
香ばしいコーヒーの香りと。
「待ってたよ」
いつも変わらない
子どもみたいに笑う、大好きな人。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
