45.心あたり -side.A- ページ11
それまでニノが座っていた席に、村上さんが座る。
「何か飲みますか？」
「じゃあ、コーヒーもらおかな」
コーヒーを入れながら、村上さんに聞いてみた。
「Aちゃん、倒れたりしてないですよね？」
「してないけど…なんで？」
「すごく忙しいって聞いたから」
「忙しいけど。会ってへんの？」
「そうですね、ここ何日か」
俺がカウンターにコーヒーを出すと、村上さんは黙ってそれをひとくち飲んだ。
「なあ。俺が前言ったこと覚えてるか？」
「前言ったこと…」
心あたりは一つしかない。
「あんな顔させるんやったら俺がもらうで、ってやつですか？」
「覚えとったんや」
「…嘘には聞こえなかったから」
「当たり」
「当たり？」
「嘘とちゃう。少なくとも今は」
「……」
「…あいつ泣いとったで」
「え？」
「泣いとった。理由は教えてくれんかったけど…たぶんあんたのことで」
Aちゃんが泣いてた？
なんで？
しかも俺のことで？
村上さんの前で？
「あんな顔、見たくないねん」
ちょっと待ってよ。
意味がわかんない。
「これ、あんたのやつやろ？」
訳がわからないまま、村上さんに渡された紙袋を受け取る。
中には、いつだったか俺がAちゃんに貸した黒いストールが入っていた。
「なんで…」
これを村上さんが持ってんの？
俺が顔を上げると、村上さんがまっすぐこっちを見ていた。
「忘れて行ったんや。Aが」
忘れて行った？
「俺の家、に」
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年12月16日 18時
