10.不意打ち ページ10
歓迎会がお開きになった後、昨日も会ったけどなんとなく雅紀くんの顔が見たくなった私は。
閉店まぎわの「Siesta」に寄ろうとして。
深緑の扉に貼り紙が貼ってあることに気づく。
「アルバイト募集！
ホールスタッフ1名、接客が好きな方歓迎します」
ぎいっと扉を開けると、雅紀くんがにっこり笑って迎えてくれた。
今日はもう帰ったのか、ニノくんはいなかったし、最後のお客さんも、帰るところだった。
ありがとうございましたー、って笑顔で送り出した後、雅紀くんが私の方に向き直る。
「遅いね、今日」
「うん、大阪から研修で来てる人の歓迎会だったんだ」
「そっかー、何か飲む？」
「お水にしとく」
おっけー、と頭にぽんって手を置かれた。
そんな些細なことで、いちいちドキドキする私の心臓。
出されたお水を飲みながら、貼り紙のことを聞いてみる。
「アルバイト募集するの？」
「うん、ランチタイムだけでも入ってもらおうかなって。なかなか一人じゃ回せなくて」
「お客さん増えたもんね」
「ヤマカゼサトシ先生のおかげでね」
「でも、きっとそれだけじゃないよ。『Siesta』は素敵なお店だから、絶対また来たくなるんだよ」
洗いものをしていた雅紀くんの手が、止まる。
「…Aちゃん、ちょっとこっち来て」
「どうしたの？」
「お願い」
スツールを降りて、カウンターの向こう側にまわる。
手が濡れてるから、何かとってほしいのかなって思って雅紀くんの横に並ぶと。
不意にキスされた。
「…ありがと」
「え？」
「すっごいキスしたくなったんだよねー、今」
でも手がふさがってるからさ、って笑う雅紀くん。
「ずるい…」
「え？嫌だった？」
「嫌じゃないよ」
なんか私ばっかり、ドキドキして。
ずるいよ、雅紀くん。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年11月27日 20時
