33.サンカゲツ ページ33
信号が赤になったから、車がゆっくり止まる。
雅紀くんはハンドルの上に両手と顎をのせて、前を向いたままで言った。
「Aちゃん、あのさ」
「うん？」
「俺に何か言いたいことある？」
突然ずばっと聞かれて。
ぱっと思い浮かんだのは、マキちゃんの顔だった。
「……どうしたの？急に」
「ないの？」
聞いてみようかな、マキちゃんのこと。
信号が青になったタイミングで思い切って口を開く。
「雅紀くん、マキちゃんと何かあった？」
「……」
「あ、ごめん。違うの、疑ってるとかそういうわけじゃなくて」
「実は…告白めいたこと言われたんだ」
「……そう、なんだ」
「はっきり好きだって言われたわけじゃないけど。
断ろうとしたら、のらりくらりかわされてて」
え？
まだ断ってないの？
「……へえ」
あ、なんか可愛くない言い方しちゃった。
「Aちゃん、それいつから思ってたの？」
雅紀くんの口調になんとなくトゲを感じた。
ちょっと待ってよ。
なんで私が責められてるの？
「……この間『Siesta』行った時だけど」
「けっこう前じゃん」
雅紀くんが何を言いたいのか、よくわからなかった。
のらりくらりかわされてて、って。
本気で拒絶しようと思えば、できるんじゃないの？
「満更でもなかったりして」
「そんなわけないだろ。
Aちゃんだって…」
「私だって、何？」
「…なんでもない。ごめん」
何に対するごめん？
その後もなんだかギクシャクしたまま、私のマンションに着く。
今日は寄って行く？っていう雰囲気でもなく。
「じゃあ…お休み」
って車を降りた。
家に帰って来て一息つくと、イライラした気持ちはおさまって、とたんに悲しくなってくる。
私は知ってる。
好きだよって言ってくれていた人が、簡単に心代わりするってこと。
急に気持ちが離れる瞬間があるってこと。
雅紀くんもそうなの？
雅紀くんもいなくなるの？
壁にかけてあるカレンダーを見て。
今日で付き合って3か月になったことに、気づいた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年11月27日 20時
