22.関西弁の客 -side.A- ページ22
この間ランチを食べに来てくれてから、しばらくAちゃんが来ていない。
ラインや電話はちょくちょくしてるけど。
カウンターにニノとAちゃんがいないと、なんとなくパズルのピースが足りないような気分。
ていうか単純に顔が見たいだけかも。
時計を見ると22時を過ぎている。
仕事帰りに来るとしたら、だいたいいつもこの時間。
今日は来るかな。
「店長ー！私やっぱりクローズまでお手伝いしますよ？」
今日は金曜日だからマキちゃんが夜もいてくれて、でも22時には上がってもらう約束だった。
「いや、いーよいーよ。上がってね、帰り遅くなると危ないし」
「…優しいんですね」
その時、深緑の扉がぎいっと開いたから、もしかしてAちゃんかと思ったけど。
入って来たのは、30歳くらいの男性だった。
「いらっしゃいませ」
「あー！！」
俺の顔を見て突然叫ぶから、びっくりした。
「ほんまもんや！『Attack it ! 』に出てくるマスターや！」
あ、漫画のファンかな？
最近だいぶ減ったけど、こういうリアクションは珍しくない。
「漫画読んで来てくださったんですか？」
「そうやねん！うわー、店ん中もそのまんまやあ。
このカウンターの席座ってもええ？
ここで泣ける話すんねんよなあ」
「どうぞ、お好きなお席へ」
カウンターに案内して、メニューと水を出す。
「関西から来られたんですか？」
「仕事で年末まで東京おるから、その間にどうしても来たかってん」
少したれ目ぎみの瞳を、きらきらさせている。
その間に一組お客さんが帰って、マキちゃんがレジと、テーブルの片付けをてきぱきしてくれる。
下げてくれたお皿を受け取りながら、声をかけた。
「ありがとう。もう大丈夫だから着替えて上がってね。
残業代つかないよ」
「別に…いいですよ？」
「何言ってんの、だめだめ。ほら、着替えといで」
「はーい」
裏にまわったのを確認して前を向くと、関西弁の人と目が合った。
「ご注文決まりましたか？」
「うん、ビールとホットドッグ」
「かしこまりました」
ビールを出して、ホットドッグを作る準備をしていたら。
扉が開いて入って来たのは、ニノとAちゃんだった。
いらっしゃいませって俺が言うより早く、
カウンターの関西弁の人が、驚いたように言う。
「A？」
「え？村上さん？」
ん？
知り合い？
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年11月27日 20時
