17.お願い -side.A- ページ17
あ、あせった。
ニノが言ったみたいに、Aちゃんがどっかで
「ありすちゃん」として大野さんと会ってんのかと思った。
けど。
よくよく聞いたら、「早く行きたくて」
あそこの路地走ってる、だって。
くーー！かわいい！
ニノが見透かしたように笑ってる。
「相葉さん、仕事仕事」
「あ、そうだ。何飲まれますか？」
松本さんと大野さんは声をそろえてビール、と言ったので。
冷やしたグラスにサーバーからビールを注いでカウンターに出す。
松本さんがおいしそうに一口飲む。
今日は仕事じゃないからか、表情が以前より柔らかい。
そんな松本さんが俺の方を見て言った。
「掲載後の反響はいかがですか？」
「そりゃもう…大フィーバーでした」
「それは、かえってご迷惑だったかもしれないですね」
「いえ、そんな！今は少し落ち着きましたけど、ずいぶん固定客も増えましたし。
本当にありがとうございました！」
ぺこり、とお辞儀をする。
「今日はサービスしますので、好きなだけ飲んで食べて帰ってくださいね！」
大野さんが、いやいやって首を振る。
「だめだめ。俺、ホットドッグのお金まだ払ってないし」
「そんなの、いただけませんよ」
「そういう訳にいかないでしょー。俺食い逃げじゃん」
不服そうに唇をとがらせてる。
「いえ、でも本当に結構です」
「ええー。じゃあなんかお礼させてよ。色紙でも書く？それか絵描く？」
「…先生、軽はずみなこと言わないでくださいよ…」
「あ！」
俺は思わず大きい声を出してしまった。
「こんなことお願いすんの、図々しいってわかってるんですけど…」
「なになに？言ってみてよ」
「この店の前に置く立て看板を探してるんですが、なかなか気に入ったデザインのものが見つからなくて」
「うんうん」
「立て看板に絵、描いていただけませんか…？」
「いいよ、描く」
「ほ、本当に⁈」
松本さんががっくりうなだれてる。
「先生…どこのスケジュールにそんな余裕があるんですか…」
「いーじゃん。今すぐじゃなくていーんでしょ？」
「もちろんです！いくらでも待ちます！」
「んじゃ、描く。約束」
やったー！
Aちゃんと目が合ったら、自分のことみたいに嬉しそうに笑ってくれた。
「すごいね、よかったね」
「相葉さん、すげーよ…」
うん、すごい。
妥協しないで探してて、良かった。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年11月27日 20時
