11.矛盾 ページ11
「今日は送って行くね」
洗い物を終えた雅紀くんは、テキパキとレジの売り上げを計算して帰る準備を始めた。
二人でお店を出ると、雅紀くんは深緑の扉にがちゃりと鍵をかける。
「よしっと。行こっか」
「うん」
「朝晩寒くなってきたねー」
「ほんとだね」
雅紀くんが首に巻いてた黒いストールを、はずしてふんわり肩にかけてくれた。
「雅紀くん、寒くないの？」
「うん」
「でもストール巻いてなかったらけっこう薄着じゃない？」
「いーから、いーから」
ストールから雅紀くんのにおいがして、胸がきゅってなった。
「雅紀くんは、優しいね」
「そうかな？」
「うん。いつも、優しい」
「…誰にでも優しいわけじゃないよ」
「そう？誰にでも優しいよ。
優しさでできてるよ」
あはは、って笑ってた雅紀くんが急にまじめな顔になる。
「好きだから、だよ」
「え？」
「Aちゃんが好きだから。
…優しくしたくなるんだよ」
雅紀くんの言葉は。
時々苦しくなるくらい、まっすぐだ。
それなのに私はマンションに着いて、寄って行く？って言おうかどうか、また一瞬考えてしまった。
そうしたら、先に雅紀くんに言われてしまった。
「じゃあね！」
「あ…うん。送ってくれてありがとう」
「お腹出して寝ちゃだめだよー」
「だ、ださないよ！」
おやすみー！って手を振って帰って行く雅紀くんを見送っていたら。
なんで、もっと一緒にいたいって言わなかったんだろうって今さら思う。
「あ…ストール返すの忘れてた」
雅紀くんのストールをもう一度ぎゅうって巻きなおすと、なんだか雅紀くんに抱きしめられてるような気持ちになった。
雅紀くんが優しすぎると苦しくて。
幸せすぎると不安になる。
矛盾だらけでやっかいな気持ちが、もどかしい。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年11月27日 20時
