肆拾玖行目 ページ15
応接間まで移動する途中、僕の後ろについてくる箕浦さんと婦警さんに賢治がとことこと近づいてきた
そして、婦警さんの持っている茶封筒に気づくと、ぱぁぁっと顔を輝かせた
「これ、お約束してた書類ですよね?ご苦労さまです!」
婦警さんは賢治くんに茶封筒をそっと手渡した
その頃には応接間に着いていたのでそのまま椅子を勧める
諭吉先生はこの2人が来ることは把握済みのはず、きっと後から来るのだろう
春野さんがお茶を用意してくれてから数刻たって、諭吉先生は姿を現した
「新しい手配書に関しての話だと伺っているが…その茶封筒か」
「ええ、内密にと上から言われたもので……詳しくは分かっておりませんが、今日夕刻頃に使いがこちらに訪問すると」
「承知した」
諭吉先生は依然として険しい顔のまま茶封筒を開き、そっと中に入っているであろう手配書に目を通した
そしてふっと目を閉じると、ゆっくりと僕にその手配書を手渡してきた
『………』
顔写真の上
ほかの字よりも目立つように大きく、濃く印刷されたその文字に何よりも先に目がいった
『………碧川、潭』
それは、僕のよく知る名前だった
「碧川はお前に許し難い仕打ちをした」
いつの間に出てしまっていたのだろうか、箕浦さんと婦警さんは既に部屋を出てしまっていた
見送りに出たのだろう
冷気を伴って諭吉先生は再び応接間へとやってきた
諭吉先生は冷たく、大きい手をそっと僕の頭にのせる
ゆるりゆるりと僕の頭をゆっくりと撫でる
『……”先生”は、なんのために…』
諭吉先生は険しい顔のまま、僕の問いに何も答えることはせず、ただ”あの時”のようにふわふわゆるりと撫でるだけだった
「藤村」
『……はい…』
「罪を償いたいと思うなら、生きろ」
”早まってくれるな”と、諭吉先生はどこか震えたような声でそう呟いた
僕は頭上のはるか上で揺れる諭吉先生の瞳を一瞥し、そっと俯いた
諭吉先生、あなたはとても酷なことを言う
代償は等価交換でないといけないでしょう?
生きるという償いは、僕がやったことと比べてしまえばあまりにも軽く、認められない
未だ僕の頭を撫でる諭吉先生の温まってきた掌の感触を感じながら、僕はただ口を噤んで座っていた
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名無し83958号(プロフ) - すっごく面白いです!更新を今か今かと待ち望んでます。頑張って下さい! (2020年4月28日 19時) (レス) id: 4a83a3e4ca (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - 虚さん» コメントありがとうございます!近々再び更新を再開する予定なので気長に待っていただければ幸いです! (2019年9月19日 18時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
虚(プロフ) - え、なんこれドチャクソ好きです。更新頑張ってください! (2019年9月19日 17時) (レス) id: 7c0e52b0b9 (このIDを非表示/違反報告)
雨宮碧音(プロフ) - クロッキーさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです…!頑張ります! (2019年5月27日 15時) (レス) id: e732f79f93 (このIDを非表示/違反報告)
クロッキー(プロフ) - めちゃくちゃ好きです………!更新頑張って下さい! (2019年5月27日 12時) (レス) id: 3248997e70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨宮碧音
作成日時:2018年9月21日 1時