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自分の話で笑ってくれるこの子が、誰よりも好きだ。なかなか会えない状況だが、それでも諦められずに今も通ってしまう。自覚したのは学生の時だったか……僕も随分と大人になってしまったな。


「だからね、鬱くんはちゃんと、今の周りの女の子を見てあげるべきだと思うんだ」


 はっと、その言葉で浮わついていた気持ちが地に落ちる。いつもそうだ、この言葉は別れの合図で、彼女は僕を現実に帰そうとしてくる。


「待って、まだ話してへんこと、たくさんある」
「いつまでも私を背負ってたら、鬱くんしゃがみこんじゃうでしょ? ちゃんと現実を見て、前を向いて歩いて欲しい」
「嫌や、忘れたくない、ずっと一緒に居ろうや」
「忘れて欲しい」
「嫌やっ!」


 勢いで掴もうとした手は空を切る。どれだけ掴もうとしても、すり抜けて体温さえ感じさせてくれない。
 何でこうなってしまったんだっけ。どうして彼女とは、ここでしか会えないんだっけ。


「好きだよ鬱くん。だからね、もう自由になって」
「なりたくない」
「ずっと高校生の私は、一緒に前に進めないから」


 悲しげな笑顔は笑顔じゃない。僕が見たいのはそんな顔じゃない。もっと幸せそうな、楽しくて仕方ないと表情で語るような、そんな笑顔だ。
 でもそれを奪ったのも、僕。


「年を取った鬱くんも素敵だよ。きっと、そんな鬱くんを好きだって言ってくれる人がいる。私は貴方の幸せを願ってる」
「嫌や、そんなの居らん、俺には君しか居らんのに」
「名前も忘れた幼馴染みなのに?」
「わ、忘れてへん、ホンマや。ちょっと出てこないだけ……」
「もう危険なこと、しないでね。それで本当に死んじゃったら、私怒るから」
「……怒らへんで、嫌いにもならへんで、悲しいことも、言わへんで」


 涙で滲む視界に彼女は居た。触れられないけど、会話は出来る。温もりは感じられないけど、表情で伝わるものがある。彼女は確かに、ここに居た。



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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home  
作成日時:2022年3月9日 11時

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