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コンちゃんは私が小さい頃家の近くにあった神社でよく遊んでくれた狐さんだ。
不思議な事に顔も体も人間で、人の言葉も話せるのに私は狐だと信じて疑わなかった。
狐だからコンちゃんね! と宣言した私にいつも「だからシャオロンやって!」と名前を訂正するのがお決まりで、そう返してくれるのが嬉しくてずっとコンちゃんって呼んでたっけ。
でもね、一目でわからなかったのもしょうがないと思うの。
だってコンちゃんはあの頃私と同じくらい身長も手も小さくて、尻尾もこんなに立派じゃなかった。
『こんなにイケメンになったら誰もわかんないって』
「え? イケメン?」
『うん、十人が十人振り返るイケメン!』
「えー? そら……そうやけどなー」
照れるとそわそわ尻尾を動かして、それから座り込むのもコンちゃんだ。
ぎゅって小さくなって足の指をいじりだす。
こうして本人を目の前にするとどんどん記憶が蘇る、人間の脳って面白い。
ねぇコンちゃん、そういって尻尾を一撫ですると更に顔を赤くする、これも昔と一緒。
『懐かしいね、会えて嬉しいよ。私に会いに来てくれたの?』
「そういうわけ、ちゃうねんけど……街で見かけて、つい追いかけてしもて、そしたら雨降って来て……声かけるつもりも、なかってん」
『何で? 声掛けてくれて嬉しいよ』
「でも、やっぱり覚えてへんかったやん」
寂しそうな顔に罪悪感を覚えながら、拗ねた彼に詳しく話を聞く。
狐の妖怪である彼ら一族の姿は普通の人間には視認出来ない。
でもごく一部の人間には見えてしまうらしく、普段は見つからないように神社周辺でひっそりと暮らしているそうだ。
でも私が小さい時一人で遊んでいて可哀そうに思ったコンちゃんは、大人に内緒で姿を見せて私が帰るまで遊んでくれていたらしい。
でも私は成長し、学校が始まり、だんだんと神社には行かなくなった。
私に会いたいと思っても、学校は人間がたくさんいる。
登下校も家の中も、ずっと誰かの視線がある。
存在を知られてはいけないコンちゃんは、諦めるしかなかった。
そして私は彼に会わなくなり、彼の存在も忘れていった。
それは寿命が短い人間ならみんなそうで、仕方ない事。
そういうもんやからお前のせいやないで、と言った彼は苦笑いしていた。
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時