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「この道を真っすぐ行くと大通りやから、気を付けて帰り」
『え、本当だ、気が付かなかった』
「こっから見といたるから、振り返らず真っすぐ行くんやで」
『振り返らず? 何かあるんですか?』
「いや、何もあらへんけど。アニメでよくあるやつやん」
ゾムさんは最初からずっとこうして笑っていた。
それってもしかして、私を怖がらせないようにしてくれてたのかも。
『助けてくださってありがとうございました。あと、トマトも』
「お嬢ちゃん可愛いんやから、もうこんなとこ来たらアカンで」
『かわっ……!?』
「気いつけて帰りや」
『……それでは、お元気で』
もう一度深く頭を下げて、ゾムさんとお別れをした。
笑って手を振るゾムさんの足元にはいつの間にかネコちゃんがいて、二つの暖かい視線を感じながら私は大通りに向かう。
最初はもう死ぬんだと思った。
知らない男に酷い事をされるんだと思って、諦めそうだった。
でもゾムさんという優しい人に助けてもらえて良かったな。
約束したし、もうここには入らないようにしなきゃ。
……でも、何でゾムさんはあんな危険な路地裏に居たんだろう。
『あ、居ない』
大通りに出て振り返ると、もうそこにはゾムさんもネコちゃんも居なかった。
消化不良の様に胸の中で疑問が渦巻く。
あんなに優しい人が、何故あんな淀んだ空間に?
急に今までの出来事の現実味が無くなり、夢だったんじゃないかと疑ってしまう。
でもちゃんと膝は痛いし、手にはトマトも持っている。
あれは本当に現実だ。
その日はご機嫌で家に帰った。
両親は膝の怪我に驚いていたが、トマトを食べてその美味しさに喜んでいた。
危険な出来事は助けられた美談で上書きされる。
人間の脳は都合よく出来ている。
膝の痛みが完全になくなった時、私はまた路地裏の入り口に立っていた。
End.
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2022年3月9日 11時