第4幕 逃避 ページ6
高校1年生になった
私の通う学校は持ち上がり制で中等部から高等部に上がるのが一般的だ
外部受験をする人も中にはいるが私は、特に行きたい学校はないし流されるまま高等部に上がった
勿論首席で
入学式の挨拶ではいつも通りの人好きのするような笑顔を浮かべ、そして反吐が出そうな程善人ぶる
くっそめんどくせぇ
だから首席は嫌なんだよ
どうしようもなく
酒が飲みたくなるし、煙草も吸いたくなる
最近は特に
ズキズキと痛む右足に内心舌打ちをする
あれは去年の冬だ
しんしんと雪が降る寒い日だった
学校から帰る時、校門にて女子の色めきたつ声が聞こえた
黄色い声に顔をしかめながら近づくとそこには見知った顔がいた
『樹、何してるのかな?』
「っあ、A姉さん!」
樹は顔を輝かせ私に駆け寄って来た
彼は未だに私を姉と慕ってくれる
その純粋さは時に私を苛立たせる
でも、突き放せない私は甘んじてその呼び方を許すのだ
『今から帰り?たまには一緒に帰りましょう?』
私は微笑を作り、汚い内面を隠す
「…!うん!」
樹は頬を赤らめ笑う
愚直で可哀想な子
最近の樹の印象だった
けど、私は彼を拒めない
可愛い可愛い弟分を拒めない
可哀想と可愛いって似てるでしょ?
以前の私なら
将来有望なイケメンゲット!唾つけとこっ!
くらいは思ったかもだが、正直、綺麗な樹を私が汚す事は気が引けた
階段を降りる時、私は気づかなかった
否、本当は気づいていたかもしれない
後ろから迫る、私を恨む、嫉妬深い女が
ドン!
「!A!」
多分、私は綺麗な樹を見るうちに自分の汚さを実感していたんだ
気づいていたにも関わらず何故避けなかったのは
私は樹と、そして、翼と同じステージには立てない事に気づいたから
立てない、立ちたくない
彼らを汚したくなかった
『(…これで死んだら次は何処に向かうんだろう。)』
私は静かに目を閉じた
高所からの落下は、まるで私の人生そのもののようだと自虐的に笑った
次に目が覚めたら病院だった
『…生きてる。』
私はポツリと呟いた
しかし医者からはこう告げられた
もうステージには上がれない
私はそれを聞いて
悲嘆や憤怒を感じるより
心から安堵したのだった
これは約束に縛られた女の話
計算高く、保守的で、特別を作らない、沢山の仮面を所持する女
しかし誰よりも愛を欲し、誰よりも縛られたい、寂しがり屋な女の話である
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作者名:おこめ | 作成日時:2019年9月3日 21時