きょうき ページ34
しばらくして、食事の乗ったワゴンを押す吸血鬼と一緒にクローリーが部屋に戻ってきた。
吸血鬼が退室してから、私はクローリーに話しかける。
「あの、クローリー様」
「ん〜?」
「手頃な刃物を持っていませんか?ハサミよりは、これくらいの小刀だと尚よしです」
「…なにに使うの、それ」
食事をしやすいように準備してくれていたクローリーの手が止まった。
私を見つめるクローリーに、先ほど思いついた事を提案する。
「クローリー様が私を殺せないなら、いっそのこと自分で死のうかと思って。ほら、そしたらすぐに元気になりますよ」
ナイスアイディアでしょう?と私が笑うと、クローリーの眉間にぎゅうっとシワが寄った。
「ダメに決まってるでしょ」
「え。でも」
「君、まさかそれ実行したことあるの?」
なんだかクローリーの纏う雰囲気が怪しくなってきた。吸血鬼に怒りなんてないはずなのに、怒っているように見える。
「えーと、でも二、三回ですよ?最初は抵抗あるかもですけど、やってみればそれ程でもないんです。すぐに生き返るので、言葉にするほどアレな感じでも…」
わたわたと言葉を重ねるが、言えば言うほどクローリーの眉間にシワが寄る。
まずい。よほど変な事を言ってしまったらしい。
「あのねA」
「はい…」
「そうやってすぐに死ぬ事を考えるのは、人間の考え方じゃないよ」
まさか吸血鬼にそんな事を言われてしまった。
いや確かに、長く生きた中で死ぬ事に対して躊躇がなくなった自覚はある。
でもそれは私の体の特殊性を活かした使い方をしているだけであって、自然なことのはずだ。
「でも…」
「…君が八百年の間にどんな生き方をしたのかは知らないけど、今の君の考え方は狂ってるよ。それを自覚して、あとは自分で考えなさい」
「自分の心が、まだ人間であれているのか」と、そう言って話は締め括られた。
クローリーがテーブルの上に食事を用意してくれる。ベッドで食べるのはあれなので、体を支えられながら席に座って、それをもそもそと食べ始めた。
クローリーはまだ部屋にいてくれているが、一言も喋ろうとはしない。私も喋る気にはならなくて、クローリーに言われた事を頭の中で反芻し続けた。
「自分の心が、まだ人間かどうか」…?
人間であるはずだ。今までそれに疑問を持ってはいなかった。けれど、今は?
食事を食べ終わっても、その答えは出なかった。
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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時