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おもいで ページ4

「げ」と声に出してしまってから、慌てて口を閉じた。吸血鬼は耳がいい。



路地から出ようとしていた兄妹を奥に押し込んで、口を手で押さえる。私一人ならどうとでもできるけれど、子連れじゃ無理だ。



どきどきしながら早く行けと念を送っていると、それが通じたのか、吸血鬼はこちらに視線をやることなく路地を通り過ぎた。



それにほっと息をついた時。




「…血の匂いがするな」





吸血鬼が路地の中を覗き込んできた。
簡単に見つかってしまう。


膝から血を流した少女が、泣きながらがくがくと震えている。兄はそんな妹を抱きしめた。



私は咄嗟に、兄妹を自分の後ろに隠した。





「なぜ大人が…。いや、どうでもいい。生き残った人間は全員連れてこいとの命令だ」




「それは誰からの?」




「人間に教える意味があるか?」






ま、ないか。


それについての返答は期待していなかった。吸血鬼は人間を見下しているから。





「じゃあ、大人しくついて行ったとして、子供たちの安全は保証してくれる?」




「さあな」





答えてくれない。

どうしようかな。武器もない今、貴族ではないとはいえ吸血鬼を相手にして勝てるか分からない。

この兄妹も、ここで難を逃れたとしてもこの先生きていけるかと言われれば難しいと思う。



それなら、護送中の間くらい私が守ってあげられる今連れ去られるのが、後々のことを考えれば一番安全かもしれない。



そうだね、あまり悩んでいる時間もないし。そうしよう。




「分かりました。大人しくついていきます」



「最初からお前らに選ぶ権利などない」





吸血鬼からしたら、そうか。


私が従ったことで、後ろで震えていた兄妹が絶望的な顔になる。んん、勝手に決めて悪いことをした。





「大丈夫だよ。捕まったからといって、殺されるわけじゃないから。移動中は私が守るから、ね?」





しばらく真っ青な顔で震えていたが、兄はゆっくりと頷いてくれた。

妹の方は、そんな兄にしがみついている。



この様子なら、二人一緒にいる限りは大丈夫そうだ。





そんな兄妹の様子を見て、昔の記憶がふと頭を過ぎる。


ずっとずっと昔、私がまだ大好きな人に守ってもらっていた頃のこと。



大好きな人の顔を思い出して、少し顔がにやけてしまった。





「あー…早く、会いたいなあ」

へりこぷたー→←ひとだすけ



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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時

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