吸血鬼になった彼との (ページ16)

今日:21 hit、昨日:15 hit、合計:84,102 hit

ねこページ16

それから、私が吸血鬼の都市で生活するようになって数週間が過ぎた。

とは言っても、最初に連れてこられた日以来、私はフェリドの屋敷から一度も外に出ていない。完璧な引きこもり生活を満喫している。

「ねーえ、フェリド」

「ん～？」

「クローリー様はまだ来ないの？」

執務室でなにか書類仕事をしているフェリドを横目に、ソファに座って本を読みながらそう聞いてみる。

フェリドに気を許しているわけではないが、ここの生活は本当に退屈で、話し相手になるのならもうフェリドでもいいやと、最近は行動を一緒にすることが多かった。

「あ～、忘れてた」

「忘れてたの？クローリー様から、お返事とかはこないの？」

「こないね。使いに出した吸血鬼が戻ってきてるから、手紙は届いてると思うけど」

そのあたりはずいぶんと適当らしい。

そっかと頷いて、また本に視線を戻す。読んでいるのは日本語に訳された聖書だ。
神に興味はないけれど、これを読んでいるとクローリーと暮らしていた頃の事を思い出せるから、聖書は少し好きだった。

「Aちゃん、僕に対してだんだん緩くなってきてない？」

「そんなことないと思うけど…」

「あるよ。太もも丸見えだし。クローリー君が見たら泣いちゃうよ」

たしかに、ずっと同じ姿勢でいるのは辛くて、先ほどからソファの上で体育座りをしていたから、角度によってはスカートの中が見えてしまう。

さりげなくスカートを膝にひっかけながら、じとっとフェリドを見上げた。

「吸血鬼のくせに、目のつけどころが変態オヤジみたいだよね」

「いやいや、僕、前に君のこと襲ったじゃない。もうちょっと気をつけてくれてもいいと思うな～。あっ、それとも誘って…」

「はいはい、読書の邪魔しないでくださーい」

襲ったとは言っても、あれはフェリドの暇つぶしだったはずだ。

吸血鬼なんて、形が人に似ているだけで別の種族なんだから、そんなに意識するのもなあ、と八百年を生きた中身がおばあちゃんの私なんかは思ってしまうのである。

フェリドなんかは、あれだ。でかい猫みたいなもんだ。

お尻もちょっと疲れてきて、ソファにごろんと横になる。

しばらく聖書に目を通していると、ふっと視界が暗くなった。