彼が吸血鬼になるまでの (ページ39)

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しんてんページ39

「A、こっちを見なさい」

「う…？」

両手を少し下にずらして、上目遣いで僕を見る。

顔を真っ赤にして、目は少し潤んでて、今日の彼女はいつもより可愛いみたいだ。

僕もこの場の雰囲気に当てられたのだろうか。酒が回っているのもあるかもしれない。

もし、今日女を抱くなら、彼女がいいなと思ってしまった。

「しっかり顔を見せて」

「えと、それは…私今、すごい情けない顔を…」

「いいから」

少し迷った様子を見せてから、両手を下ろす。
恥ずかしいのか、こちらに視線は向けず、唇をひき結んでじっと斜め下を見ている。

そんな彼女の頬にそっと手を添えると、びっくりしたように、やっと視線がこちらを向いた。

「いいかな」

「え、えと、なにがでしょう？」

「言わなきゃ分からない？」

こちらを見上げる彼女の顔が、それ以上赤くなるのかと驚くほど、また赤さを増した。
そろそろ火を吹きそうだ。

彼女は「えーと」とか「んーと」とか目をきょろきょろさせて、困り果てたような顔になった。
まさか、断られるのか。

「こうやってたくさんの女の子を落としてきたんだ…クローリー様の女たらし…」

うるさいよ。
そんな事を言える余裕があるならいいだろうと、返事を待たずに彼女の唇を奪った。

舌を入れるか少し迷って、そんな事をしたら倒れそうだと軽い触れ合いだけで終わらせた。
それでも、唇が触れ合った途端に力の抜けた彼女の体は、僕が腰を支えておかないとすぐに崩れ落ちそうだ。

「立てる？」

「う、ちょっと待ってくださいね、ん～…」

どうやら腰が抜けたらしい。
自立できずに僕の体に縋り付きながら、ぷるぷるの足をなんとか踏ん張ろうとしている。

…慣れてないにも程がある。

さっきヴィクターともしていたんだから、初めてではないはずなのに。それとも、相手が僕だからか。

そんな事を思えば、自尊心だとか、独占欲だとか、そんな感情がむくむくと膨らむ気がした。

このままベッドに連れ込もうかと思っていたが、この様子を見るにまだ無理そうだ。今日ここまでしただけでも、彼女としては頑張った方だろう。

僕の服の裾をそっと摘みながら、恥ずかしげに目を伏せる彼女の頭を優しく撫でた。