彼が吸血鬼になるまでの (ページ38)

今日:19 hit、昨日:15 hit、合計:91,826 hit

かんちがいページ38

「別に怒ってないけど」

「じゃあ、なんでそんな顔するんですか。普段なら言わないことも言うし、一体今どんな気持ちなんですか」

僕は今どんな顔をしているんだろう。
無言で彼女の顔を見つめて、思っていた事を言ってみる。

「僕は、てっきり君が好きなのは僕だと思ってたから」

「え」

「でも、勘違いだったみたいだ。それに恥ずかしがってるだけだよ」

本当のことだ。
だって彼女は、いつだって僕と一緒にいる時は他の者に見せない顔で笑ってくれるし、頬を赤くして、少し
可愛らしくなる。

だから勘違いしてしまったけれど、思えば彼女の口からそれらしい言葉を聞いたことはない。

僕が彼女を娘か妹のように思っているのと同じように、彼女も僕のことは父とか、兄のように思って、懐いてくれただけだったのかもしれない。

「だから気にしないでくれ。ヴィクターとの関係を邪魔する気もないから、安心して…」

「合ってますよ！」

僕の言葉を遮って、不意に彼女が叫んだ。

合ってる？会ってる？なんのことだろう。

僕が不思議な顔をすると、彼女は僕の顔を正面から見上げて、一度、二度、口をぱくぱくさせてから、意を決したようにもう一度声を出した。

「私が好きな人は、クローリー様で間違いありません。合ってます」

「え、でも」

「さ、さっきのは、ヴィクター様に不意を突かれただけですし、ヴィクター様も私の顔が好きなだけで、私自身に興味はありません」

ああ、それはたしかに想像がつく。
彼女は今日食堂の中にいる女の子たちと比べても、群を抜いて美人なのだ。ヴィクターのことだから、最後に抱くならと彼女を誘うこともあるだろう。

「でも、君は抵抗してなかったじゃないか」

「だって、あのヴィクター様から、あんな真面目な顔で言われたら、ぎゅってされるくらいならいいかなって…。お誘いは、ちゃんと断りました」

なるほど。
じゃああのキスも、ヴィクターが勝手にしたことか。
こうして話を聞くと、どんな話の流れであの光景に至ったのか、簡単に想像がつく。

なら、全部僕の勘違い？

うわあ、と苦笑が漏れた。早合点して彼女に当たってしまうなんて、悪い事をした。

「そうか、僕の勘違いか」

「…」

「君が好きな男は、僕で合ってたんだ」

「ぅ…」

顔を真っ赤にして、手で顔を覆ってしまう。
その反応はとても可愛らしかった。