彼が吸血鬼になるまでの (ページ31)

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うたげページ31

なにかしたいと思いながらも、なにをする事もできず、クローリーはそれから一度も家に帰らぬまま、十字軍出征前夜を迎えた。

翌日には聖地を取り戻す戦争に向かうという事で、テンプル騎士たちの宴をする音がここまで届いている。

私は、今頃クローリーもその宴の中で酒を飲み、肉を食べ、女の子と遊んでいるんだろうなとしばらくその明かりを眺めてから、いてもたってもいられず家を飛び出した。

　

向かった先は、テンプル騎士団が所有する大食堂だ。
少し離れたところからでも、外に風を浴びに来ているのだろう顔を真っ赤にした男たちの姿がちらほらと見えてきた。

クローリーは、中かな。

食堂に近づくにつれ、心なしか酒の臭いが強くなってきた気がする。たくさんの料理の香りが混ざり合って、胸焼けしそうだ。

食堂の中からは、時折男たちの粗野な笑い声が聞こえてきて、礼節を重んじる騎士とは一体なんだったのか。中に入るのを躊躇する。

しかし、明日にはクローリーは戦争に行ってしまうのだ。怖気付いている場合じゃない。

私は光に当たると煌めく銀髪を、顔と一緒に布でくるんで、そーっと食堂の扉を開けた。

食堂内は、それはもうすごい光景だった。

よく体を鍛えているのが分かる男たちが、酒で顔を真っ赤にし、綺麗な女の子のスカートの中に頭を突っ込んでる人までいる。

女の子たちも綺麗な服を着て、楽しそうにきゃあきゃあと騒いでいる。世界が違いすぎて、とても馴染めそうにない。

できるだけ目立たないよう、食堂の端っこをそろそろと伝っていく。たぶんこの宴、一般人は参加禁止とかではないかと思う。
女の子も綺麗な子たちばかりを選んで連れてきているようだし、テンプル騎士以外の人間は呼ばれない限り入っては駄目なのではないか。

バレて、怒られるだけで済めばいいけど…。

どきどきしながらクローリーの姿を探していると、布で隠しているせいで狭くなった視界の端から、見覚えのある男の顔が現れた。

「おっ？なんだ、そんな汚い布で顔を隠して。どこの店の女だ？顔を見せてみろ」

酔って顔を真っ赤にしたヴィクターだ。

ひぃっと息を飲む間に、頭に巻いていた布を剥ぎ取られてしまう。

あ、終わった。