彼が吸血鬼になるまでの (ページ24)

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ふわっページ24

「あれ、あれ？」

ばちぱちと、なぜ涙が出ているのか本当に分からないというように目の前の少女が瞬きをする。

そんな様子とは裏腹に、目を瞑るたび、涙はぽろぽろと白い肌を伝って溢れていった。

「違うんです、私、大丈夫なんです。なんで…」

「A。落ち着きなさい」

膝の上に置かれた小さな両手を、片手でぎゅっと包み込む。
そのおかげで涙を拭うことのできない彼女の代わりに、空いた手で優しく、頬を伝う涙を拭いてやる。

部屋に入った瞬間から、違和感はあった。

まだ短い付き合いではあるが、彼女は僕を見たら、とても嬉しそうな顔で笑うのだ。

あんな、空虚な瞳を向けられるなんて。

空気の読めない「おかえりなさい」を言った後、ふわりと笑みを見せてくれた事で、どんなに安心したことか。

「ごめんなさい、クローリー様。初日からこんな、迷惑を…服も駄目にしちゃって…」

「迷惑なんて、今更だよ。君、出会った日に夕食の席で倒れたんだから」

はは、と冗談を言ってやると、ぱちぱちと目を瞬いた後、ふふ、っと笑ってくれた。

「ダメダメなんです、私」

「それ分かってて、僕は君の面倒を見るって言ったんだから、気にしなくてもいいのに」

「でも、クローリー様には迷惑をかけたくないんです」

なんで、とは聞かなかった。

理由なんて分かりきっている。この少女はとても分かりやすいのだ。

「…あ、クローリー様。もしかして今、わがまま言ったら通りやすかったりしますか？」

「ものによるね」

「では言うだけ言ってみます。ぎゅってしてください」

彼女の両手が、きゅっと力を入れたのが分かった。随分勇気を振り絞ったらしい。

僕はふむと頷いてから、彼女の両手の上に置いていた手を離して、ふわりと彼女を包み込んだ。

「…クローリー様、これ、ぎゅっじゃないです。ふわっです」

「だって、ぎゅってしたら君潰れちゃいそうなんだもん」

腕の中でむ、と声を漏らした彼女は、大胆な発言とは裏腹に、軽く僕の服を摘んで、額を胸にすり寄せるだけだった。

これで満足してくれるなら、まあいいけど。

それから、腕の中で彼女が寝息を立てるまで、僕たちはずっと黙って、柔らかな抱擁をしていた。