彼が吸血鬼になるまでの

だめだこれは ページ17

目の前の娘が、綺麗な顔でお礼を言いながらにこりと笑う。


食べ方も綺麗だったし、ちゃんとした教育を受けていたというのは本当みたいだ。
たまに、変なマナーになっていたり、食前と食後の挨拶に慣れていない様子はあったけれど、基本はできていたように思う。


もしかしたら、最初の印象があれだっただけで、本来はしっかりとした女性なのかもしれない。

それなら心配することもない、明日からも大変だとは思うがなんとかやっていけるだろうと安心して頷きを返そうとした時。




今の今までこちらに微笑みを向けていた娘が、椅子から転げ落ちた。



「えっ！？」


吃驚して、慌てて椅子から立ち上がる。

ガターンと派手な音を立てて倒れた彼女は微動だにしない。打ち所でも悪かったのか。


使用人たちが慌てながらも手際良く、彼女を抱き起こす。体の様子を隅々まで見て、脈や呼吸を確認した後、困ったようにこちらを向いた。


「どうした、体の具合でも…」


「いえ、それが…ぐっすりと、寝ているだけです」



まさか、そんなばかな。

使用人の言葉を信じられず、自分でも容体を見てみる。


…本当に、寝ているだけだ。


「はあ…」


「クローリー様、どういたしましょう」


「仕方がない、空いているベッドを使ってくれ」


「かしこまりました」



先程の評価を、また見直さなければならない。

この娘は放っておけない。放り出したら、大変なことになる予感がひしひしとする。


面倒な拾い物をしてしまった。

頭を抱えながら、気持ちよさそうにすやすやと寝ている彼女の頬を軽くつねってやると、む、と眉を寄せるのが面白くて、少しだけ溜飲が下がった。

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