花火 1 …S ページ33
潤くんの言葉通り、その場所はすぐそこだった
「うわあ・・・！」
歩き始めてほんの五分もしないうちに、周りの木々が切り拓かれ、空が広く臨む場所へと出た
残り数歩はほぼ駆け足で、開けた場所へと足を踏み出せば、そこに広がっているのは街を眺望する景色だった
「凄いね、あそこが花火の上がる場所？」
「うん。少し遠いけど、人はいないし見晴らしは最高だろ？」
「うん。誰もいないなんて、驚きだね」
下に広がるオレンジの灯りの群れの先、原っぱの広がる土地には蠢く人影が無数に見える
その集団の先にある大きな河原が、花火の打ち上げ場所だった
「反対側が展望台なんだけどさ、あっちからは全く花火が見えないんだよ。こっちは展望台側と違って舗装されてないしベンチも無いから、知ってる人は少ないっぽい」
「へえ・・・。潤くん、よく知ってたね」
ぐっと空を仰げば、無数の星の煌めきが目につく
地べたに腰を下ろす潤くんに倣って、僕も体育座りをした
「小学校最後の夏休み・・・折角だからってクラス全員で花火大会に来た時にさ、思い出したんだ」
潤くんは僕の方には目を向けず、真っ直ぐと花火の上がるだろう方向へ目を向けている
僕も、同じ方向をじっと見つめた
「あの日の記憶・・・花火の音と、父さんの声。『展望台の反対側に、こんなに良い場所があったなんてな』って、一言。・・・気になって、一人逸れたふりして確かめにきたんだ」
「そっか・・・」
どこからか、割れた拡声器の音が聴こえてくる
もう花火が始まってもおかしくは無い時間のはず
「忘れてたんだよな。ちゃんと、いい思い出もあったはずなのに」
「うん・・・」
微かに、拍手の音が届く
ざわめきが次第に収まっていくのがわかる
「父さんも母さんも、俺たちのこと愛してくれてたって。頭のどっかでは、分かってたんだよな、きっと」
潤くんのその呟きは、僕の心そのものだった
「ねえ、潤くん」
「ん？」
一段と大きな拍手の音、そして静まり返る観衆
次の瞬間、甲高い音と共に、光の筋が夜空を切り裂く
「僕・・・父さんたちの病院に、行こうと思うんだ」
僕の言葉と同時に、闇夜に大輪が咲く
一拍遅れて、全身を包みこむような爆音と振動が、僕たちのところまで届いた
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しゅり(プロフ) - ポン太さん» ポン太さん、コメントありがとうございました。私も大好きな作品なので、今でもこうして愛して頂けて作者冥利につきます。素敵な乾燥ありがとうございました！ (2021年8月30日 6時) (
レス) id: 9366a89cfd (このIDを非表示/違反報告)
ポン太(プロフ) - しゅりさんはじめまして。今更ながらこちらのサイトに辿り着き読ませていただきました。…もう、感動の一言。ストーリーに凄く引き込まれました。泣いてしまいました（笑）このような素敵な作品に出会わせていただきありがとうございます…！ (2020年8月31日 23時) (レス) id: 487612dcba (このIDを非表示/違反報告)
しゅり(プロフ) - くっきーさん» くっきーさん、素敵なコメントありがとうございました(*^^*) どこか芯のある作品、それを目指して書いてきたので、そう言っていただけると本当に嬉しいです！ 読んでいただき、ありがとうございました！！ (2017年4月11日 19時) (レス) id: afce0e0771 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - はじめまして。一気に読ませて頂いて、涙が止まりませんでした。繊細だけれど芯のある力強いお話。素敵な作品に出会えて幸せです。ありがとうございました！ (2017年4月9日 2時) (レス) id: d3adf69549 (このIDを非表示/違反報告)
しゅり(プロフ) - はなさん» はなさん、コメントありがとうございました！この作品が、はなさんの中で特別な何かになれたのなら、こんなに嬉しいことはありません。勿体無いくらいのお言葉、ありがとうございます。また書く余裕ができたら、そちらでお会いできることを楽しみにしています(*^^*) (2017年4月6日 23時) (レス) id: afce0e0771 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゅり
| 作成日時：2017年3月12日 18時
