大学1年生・夏 ページ3
それは、日が沈んだのにもかかわらず、蝉の声がうるさく、蒸し暑い夏の夜のことだった。
レポート提出をようやく終え、これから飲み会に参加する。遅刻だけど、参加すると言ってからレポートを言い渡されたのだから仕方がない。ノートパソコンと参考にした資料を両腕に抱えて、暗い階段を急ぎ気味に降りていく。
踏み外した、と思ったときにはもう既に遅く、体は傾いて落ちていくだけ。どうすることも出来ず、私はパソコンを胸に抱いた。
「危ない…！」
誰かの声がしたと思うと、遠くから何かが走ってきたような気がした。そして、どさり、と、温かいものに触れた感覚。冷たい床ではなく、これは、人…？
「す、すみません！大丈夫ですか？」
「ってぇ……ホンマ、勘弁して」
体を起こしたその人には見覚えがあった。別に知人だと言えるのかも怪しい、春に一度だけ話しかけたことのある、宇津橋という男。
「………なんで……？」
なんで、わざわざ走ってきて助けてくれたのだろうか、意外だ。
「あっ、ありがとう、ございます。怪我とかない？」
慌てて立ち上がり、宇津橋の手を引いて起こした。
「いや、別に……」
宇津橋はそう言いながらも、苦痛に顔を歪めた。
「念のため病院とか」
「いやええから」
「でも」
「しつこいなホンマ、別に痛みもそんなにないし」
手を振り払われ、軽く睨むような目を向けられる。それでも助けてくれたのだ、前に感じたほど、悪い人ではないのではないか。
「なにか、お礼させて」
気付いたら私はそう口にしていた。宇津橋は目を見開く。色々と噂はあれど、助けてもらったことに変わりない。宇津橋は目をそらし、そのあともう一度私の顔を見た。
「ふーん…お礼してくれるっていうならまぁ？やぶさかではないな」
にやり、と笑う宇津橋は、舐めるように私を見た。
「例えば、ご飯奢るとか」
「そういうのはええ。わかるやろ？」
ぐい、と引っ張られて、宇津橋と至近距離で目が合う。宇津橋の目は、私を見ているようで見ていないような、何故か、少し悲しそうに感じた。
「なんで逃げへんの」
まるで逃げてほしいみたいに言う。女遊びはするのに、本命は作らない男。悲しそうな顔。
「本気じゃなさそうだから、かな」
襲われる、という危機感はなかった。宇津橋の表情には影がある。その理由が、何故か気になった。宇津橋は私から手を離し、立ち上がると、
「お礼はええから」
と言うと、暗闇へ歩いていってしまった。
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千白は山に住む(プロフ) - 凡人さん» ありがとうございます！私もお気に入りで、昔かいたものなのについ番外編を書いてしまいます！そう言っていだだけるのならここに更新しに来てよかったー！と思えます！ありがとうございました！ (2020年6月20日 9時) (
レス) id: 392f79c1f8 (このIDを非表示/違反報告)
千白は山に住む(プロフ) - bhさん» 長らくお返事できていなくてすみません！ありがとうございますー！ (2020年6月20日 9時) (レス) id: 392f79c1f8 (このIDを非表示/違反報告)
凡人(プロフ) - 更新されていてびっくりしました。私が本当に大好きなお話です...ありがとうございます！ (2020年6月5日 18時) (レス) id: 0a526fe040 (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 大好きです、これからも応援しております。 (2020年3月15日 0時) (レス) id: 204dfe46bb (このIDを非表示/違反報告)
千白は山に住む(プロフ) - 水澪恋さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました！あげて落とす仕様でしたが楽しんでいただけていたら本望です！ありがとうございます、今後もがんばります(*^^*) (2019年10月12日 20時) (レス) id: f80b5e4d2a (このIDを非表示/違反報告)
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