重たい愛への処方せん yt × in (( 中編 ))

【FIRST STEP】 ページ20

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「伊野尾せーんせ」




ガラリと保健室の扉を引けば、ふわりと香る消毒液の匂い。




「お？中島先生、どーしました？」




くるりと椅子を回転させて振り向くゆるい笑顔。




「空き時間暇だったら来ちゃいました」


「え〜大丈夫なんですか」


「大丈夫、今はほんとに空き時間だから」




きっとそう言われるとわかってから、

用意した台詞を言ってしまえば案の定、そうなんだ〜って笑った彼は俺の滞在を認めてくれた。





伊野尾先生。

伊野尾慧先生は、俺の勤めているこの学校の養護教諭。
いわゆる保健室の先生。

(ちなみに俺は、体育の先生。)



生徒の体から心のケアまで、すべてを受け持ってくれるこの先生は、

なんと教員のケア、主に心のケアまでしてくれるという有難い先生で、教師2年目の俺は新任だった去年にかなりお世話になった。



一時期は本当に伊野尾先生が心の支えだった頃もある俺だけど、2年目になって多少落ち着いた今は保健室の常連じゃない。


授業後にこっそり保健室に通う日々はなくなって、この場所で伊野尾先生に"相談"することもほとんどなくなった。




でもそのかわり、



「伊野尾先生、今晩飲みに行きません？」


「あー、いいですね。行きます」



伊野尾先生は、仲のいい飲み仲間にシフトチェンジしてるのだ。




「こないだ行った居酒屋がよくて、たぶん伊野尾先生好きそうだから」


「へぇ、…て、駄目だ、それ保健室で話す話じゃないですって」


「だって他に話すとこないじゃないですか」


「いや、電話とかラインとか」


「え、俺、両方とも知りませんよ？」




俺と伊野尾先生は、ほんとにただの飲み仲間で連絡先すら知らない。


でもそんな緩い関係が心地いいのだ。

無理に仲良しごっこをするわけでもなく、お酒を飲みながら日頃の不満をチビチビ話す。


伊野尾先生に話していればそれだけでストレスが減るし、伊野尾先生も話してくれるから一方的感がなくていい。



『気兼ねしない仲』とはよく言ったものだと思う。

俺と伊野尾先生にぴったりな言葉。




「あー、そっか、おれも中島先生の番号知らないです…この際だから交換しときますか？」


「うーん、じゃあ、しますか」




なんだか事務的な伊野尾先生に笑いがこみ上げるけど、それは堪えてスマホを取りだした。



こんなふうに交換する連絡先ならいいかなあ、なんて心の中で思いながら。

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