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けらけらと笑った景に地蔵は少しばかりの悲しみの涙を流した。もちろん景もやや笑い過ぎて目尻に涙が浮かんでいた。これが本当のある種の"聞くも涙、語るも涙"である。
「で? どうしたの、じぞーちゃん。また家出か?」
「せや。また拝む人が増えてきましてな。もうそろそろ自分の堪忍袋の尾が切れそうやさかい、ちょっと逃げてきたんですの」
「それってじぞーちゃんが結構な頻度で祟ってるからじゃ」
「それは言っちゃああかんことですよ、景はん」
にっこりと笑った地蔵。自業自得なのは地蔵自身十二分理解しているつもりである。だがしかし、拝みにくる奴が悪い。それだけは声を大にして主張する地蔵だった。
ボロ家へと向かう道すがら、色々と会話に花を咲かせる地蔵と景。もっぱら話すことといえば怪異のことだった。
オカルト研究では名が上がる程有名な景。時々メディアにも名前が出る程ゆえ、彼の怪異への見解は色々と勉強になるものが多い。
地蔵自身も怪異に属するゆえ、地元の有名な怪異であるとある幽霊や比較的交流のある侍の怪異と"最近騒がれてしんどい"と愚痴っている等、怪異側の本音を景に伝えていた。
二人が怪異のことで話を広げながらも歩くこと幾分か。とある路地を曲がったそこにあるのは赤いトタン屋根が特長的な平家である。
通称"ボロ家"。正式名称は誰も知らない、怪異専門の何でも屋、のようなところであった。
慣れたように景は玄関を開けると高い女性の声が二人を歓迎する。
「こんばんは。景くん、たたり地蔵さん」
「沢子さん、こんばんはー。じぞーちゃんがまたプチ家出だってさー」
「こんばんは沢子はん。ちょっとの間お世話になります」
玄関先で立っていたのは身長180センチメートル越えの麗人。にこりと笑うその姿はさながら大和撫子。
景と地蔵を迎え入れるために平家から出ようとした麗人だが、自身の身長のことを忘れていたらしい。盛大に額をぶつけていた。
「……」
「……」
「……いたい」
少々ドジっ子属性が入っている高身長の麗人は
「大丈夫か、沢子さん」
「ちょっとぶつけてしまいました」
いやちょっとというよりかなり酷くぶつけたと思うんやけど!?
地蔵はそう思うが口には出さず。少し赤くなっている額を自身で押さえた沢子は地蔵に「ゆっくりとしていていって」と声を掛けたのだった。
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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/
作成日時:2021年7月21日 17時