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一廻目 空き部屋の気配(Dランク) ページ4



 電車を乗り継ぐこと何時間。地蔵はボロ屋がある町の最寄駅へとようやく到着した。既に時刻は夜。この見た目のせいで多少は得することはあるにはあるのだが、どちらかというと制限の方が多い。

「僕、こんな時間帯に一人で出歩いてどうしたんだい? お父さんとお母さんは?」
「……」

 現に、巡回していた警察官によって地蔵は補導されていた。夜に子供の姿をして歩くからこうなるのである。地蔵は困っていた。なにせ地蔵にとって両親というものは存在しない。いや御仏(みほとけ)がある意味パパやママに該当するかのしれないが、言ったところで子供の戯言として処理されるだろう。
 どうしたものか、と警察官の前で悩むこと少し。

「あ、じぞーちゃんここに居たんだー。遅いから迷子になってるんじゃないかって心配してたんだよ」
「景は……けいおにいちゃん!」

 背後から聞こえてきた知り合いの声に、咄嗟に地蔵は子供の振りをして声の方へと駆け寄った。そこには笑いたくて仕方がないという風に肩を震わせている藁粥(わらがゆ)(けい)が立っていた。

「保護者、の方ですか?」
「そう、俺の遠い親戚の子。夏休みに合わせてこっちで預かることになったんだ。いやまじで遅いから心配したんだぞー」
「けいおにいちゃん、ごめんなさい……」
「……。ほら、警官の人にもちゃんとお礼言わないと」
「けいさつかんのおじちゃん、たすけてくれてありがとう!」

 このスマイルゼロ円。にっこりと笑顔でお礼を言った地蔵に、警察官はほっこりとしつつも景に対して少しの注意をしただけで特に何をすることもなく職務へと戻っていった。
 終始愛らしい子供の振りをしていた地蔵は最後の最後まで子供の振りをしており、バイバイと大きな声でお別れの挨拶を言っていたのだった。
 そして警察官が見えなくなった瞬間、堪えきれなくなった景はけらけらと腹を抱えて笑い始めていた。

「ほんとじぞーちゃん、こんな時間帯でその姿でいたら補導されるのわかるはずなのにどうしてその姿できたのよ。咄嗟に親戚設定にしたけどさ」
「仕方ありまへんやん景はん。これには聞くも涙、語るも涙な事情がありましてな」
「なになに?」
「自分、ヒトガタはこの姿しかできませんのや」

 キリッとした顔で言うことではないのだが、実際地蔵のヒトガタはこの姿しかできないでいる。使い分けできれば色々とやりやすいのだろうが、できないことを望む訳にもいかず。

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作者名:翔べないペンギン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Information/  
作成日時:2021年7月21日 17時

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