【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ27)

今日:4 hit、昨日:6 hit、合計:4,995 hit

ページページ27

．

　Ｌは夢を見ていた。それは彼がワタリとの出会った時の追体験であった。その日は今の季節と正反対の真冬。世の中がクリスマス色に染め上がり、イルミネーションが輝くそんな時分。すれ違う初々しいカップルに妬み嫉みの目線を送っていた時期でもあった。
　細雪がちらつくいつもの閑静な住宅街への帰り道。Ｌの片手にはコンビニエンスストアで購入したおでんと缶ビールが入った袋がぶら下がっている。顔を撫でる風が寒く、帰宅を急いでいたそんな最中にＬは左手の街灯の下に何かがあることに気付いた。
　それはダンボール箱だった。こんな遅くからゴミ出しとか非常識だな、とＬは考えつつも素通りした時に僅かに聞こえた。猫の声だった。
　立ち止まり、顔だけダンボールの方へと向ける。そこには数匹の猫が薄汚れたタオルケットの上に横たわっていた。

　──あぁ、かわいそうに。

　Ｌはダンボールの前に立ってそう思った。非常識な人間によってこの仔猫達は捨てられた。命の価値をわかっていない。育てられないのなら最初から飼うべきではない。育てられないのなら子供を生ませるべきじゃない。だというのに、責任能力が低い飼い主によって不幸になるペットが後を絶たない。

──せめて、供養だけでもしてあげよう……。

　十字を切って、ほぼ息絶えている仔猫達が横たわるダンボールを抱え上げようとして気付く。一匹だけ辛うじて動いていたのだ。ビニール袋を冷たい地面に置き、その一匹だけ触ると僅かに暖かかった。生きていた。
　即座に自身の体温で生暖かくなっているマフラーでその仔猫だけをくるむとビニール袋を手に通し、ダンボールを抱え上げる。揺らさないように慎重になりつつも、できる限り家への道を急いだのだ。

　結果的に五匹いた仔猫のうち、生存できたのは一匹のみ。それがワタリだった。ブリティッシュショートヘアという英国出身の猫。彼女の亡くなった兄弟・姉妹達も同じ種類であった。四匹はＬから名前というプレゼントを贈ったのち、手厚く葬儀を上げたのだ。なお、贈った名前は例の如くとある漫画の登場人物からＬは名付けていた。マツダ・モギ・アイザワ・イデと。
　ワタリのお陰で今の妻との出会い、数年の交際の後に見事ゴールイン。仕事もワタリに出会う前までは些細なミスが多かったが、今は順調に少しずつだが昇格していっている。
　正しくＬにとってはワタリは幸運の猫であった。