【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ3)

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「なぁにがたたり地蔵や。あんさん等が拝むからこういうことになったんでしょうが。知っとります？こういうのが自業自得ってゆーことを」

　若者達が去った昼下がり。格子戸を閉めたお堂の中では噂の地蔵が投げられた小銭をせっせと集めながら愚痴をぼやいていた。動くたびに床が軋むが知らぬ存ぜぬ。

「最近はなんなんや。週に二回か三回は拝みにくる失礼な奴らが多いし……。人の迷惑考えへん若者多すぎやん。日本の将来が心配や……」

　この地蔵、怪異に属するゆえに動くことも話すことも可能になった。それはいつからだったかは定かではないが、いつの頃からかこうして誰もいない時を見計らって動いたり独り言を呟いたりしていた。最近は見られてもいいようにヒトガタになっているのだが、ベースは地蔵の時ゆえさながら小坊主のようである。

「祟るんも結構疲れるんやで？いや憎くて憎くて仕方がないから、こうぶわっと勝手に出てくるから特に自分は疲れへんねんけど」

　はぁ、と溜め息を吐く。ネットの普及に伴い怪異の噂は瞬く間に全国へと広がった。古くからある怪異や現代ゆえに生まれた怪異等、様々なものがネットで拡散されている。
　その影響でここ最近はこの地蔵にも被害が被っているのである。

　人によって生まれた地蔵だが、人によって怪異になった地蔵。

　それがこの地蔵、たたり地蔵である。本来はたたみ地蔵という名称だが、もう呼ばれることは年に数える程度。とても少ない。

「もう我慢ならへん。家出や家出。プチ家出や。しばらく何も起こらんかったら噂の熱(ほとぼ)りも冷めるやろうし。最近の若者は飽き性というのかなんていうのか、堪え性ないしなぁ。いやちゃうか」

　一人ツッコミを入れた地蔵は、お堂の片隅に置いておいた古びた黄色いリュックを背負うと錠前を外して格子戸を開けた。
　一日で一番暑い時間帯ゆえにアスファルトは灼熱に太陽によって熱せられて、ゆらゆらと陽炎ができあがっていた。暑いなーと、さして暑いと思っていない地蔵はお堂の外に出て戸締りを確認。

「何処いこー。祇園かな、でもいっぱい仲間おるけど自分ちょっと毛嫌いされてるしー。熊野もなんか邪気退散させられるしー。せや、べっぴんさんな沢子はんがおるボロ屋に行こ。景はんとの仲、どうなったんか気になるし」

　地蔵が向かうは電車の駅。鼻歌を歌いながら地蔵は子供料金にて切符を買ったのであった。