【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ13)

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二廻目　喋った(Ｄランク) ページ13

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　今日も今日とて燦々と照り付ける太陽によって地上は猛暑と化していた。気温は優に30℃を超え、下手をすれば40℃を超えている地域も存在する。
　適度な水分補給が必要なこの時期。地蔵は相変わらず見ているこちらが暑くなるような真っ黒な和服、袈裟を襷(たすき)掛けをして元気に打ち水をしているではないか。
　路地裏に存在するボロ屋のため、午前と午後は比較的日陰になっていてまだ他の場所に比べたらやや涼しい。だが、悲しいことに正午──御天道様が真上にくる時間帯だけは、どうしても照り付ける太陽を避けることはできないでいる。
　ぱしゃり、ぱしゃり。木製の桶に入った水道水を道路に満遍(まんべん)なく蒔くが熱せられたアスファルトによって直ぐに渇いてしまう。

「うーん……、やはりここ数年の気候はおかしいわぁ。野分(のわき)も異常やし、梅雨もおかしいし。これが最近流行りの地球温暖化なんかなぁ」

　真ん丸く真っ白い自身の頭によって多少の照り返しが起こっていることに気付いていない地蔵は珍しく明るい路地裏を見て、そうぼやいた。
　なお、野分(のわき)とは台風の古い言い方である。古くから伝わる妖怪や怪異であればその名称でもわかるだろうが、現代で生まれた怪異ではその物言いではいったいなんのことかわからないに違いない。

「とりあえず、この桶いっぱいの水を撒けば多少は涼しゅうなりはるやろ」

　再びばしゃりばしゃりと打ち水を再開する地蔵。ついでに昼御飯は季節的にそうめんが好ましいかも、と少し考え事をしていたために手元が狂ってしまった。
　すっぽりと抜けた柄杓は宙を舞い、少し先にて此方へと向かって歩いていた人物へと直撃。

「ナイスキャッチですわ達也はん」

　することもなく。
　頭上に落ちてくる直前に右手で確りと持ち手の部分を掴んだでいた。

「こんにちは地蔵、打ち水か？」

　柄杓片手に地蔵の方へと歩み寄ってくる人物はボロ家のメンバーの一人である犬飼(いぬかい)達也(たつや)だった。
　軽く屈み、柄杓を差し出した達也に地蔵は頷く。

「せや。ものごっつぅ暑いさかい、少しでも涼しゅうなればと思ったんですけど。これだけ道が熱せられたら敵いまへんわぁ」
「今日は殊更暑いってきいたからな。帽子や頭巾は被らなくて大丈夫なのか？」
「自分、中身は石やさかい多少は平気でっせ」

　えっへんと胸を張る地蔵だが、生憎つるピカな頭は炎天下ゆえに熱かったそうな。