【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ14)

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　手持ちのタオルを水道で濡らして軽く絞り、地蔵の頭に巻いてやる達也。

「これで多少は涼しくなるはずだ」
「堪忍な、達也はん」

　地蔵ゆえに多少熱せられたところで人間のように倒れたり動けなくなったりすることはないのだが、気遣いというものは嬉しいもの。
　にこーっと笑う地蔵に達也は穏やかな笑みを浮かべた。

「達也はんは沢子はんに任務もらいにきたんです？」
「そうだな、寺の掃除や修行も粗方終わったから。何かないかと思って来たんだ」
「？いつも一緒の夢羽(むう)はんがおりまへんけど……」

　地蔵が周囲を見渡しても幸薄そうな青年はどこにもいなく。
　達也といつも、と言っては語弊があるかもしれないがよく一緒にいる人物がいる。だが、今はどういうことか一緒ではなく。
　二個一とは言わないが、比較的地蔵はあの儚げな青年と達也が一緒に任務をこなしていると聞いているため珍しいと思ったのだ。

「あぁ、猿渡(さるわたり)は今別の任務でいないんだ」
「へぇ、お二人一緒じゃあれへんのは珍しいですわぁ……」
「そうか？」

　不思議そうに尋ねてくる達也に地蔵は肯定のため首を縦に振る。

「そうなのか、じゃあ地蔵が良ければ一緒の任務をするのもいいが、どうする？」
「ほんまです？ ……あぁ、でも、それは今度にしておきまへんか達也はん。夢羽はんに自分、活け作りにされるんは勘弁願いたいんで」

　高笑いをあげながら巨大な出刃包丁を持って活け作りの準備をする夢羽を想像する地蔵だが、達也がそれを否定。

「それはない。あいつそこそこ臆病だから、地蔵にはなにもしないと思う」
「……自分、夢羽はんに何かしましたっけ？」

　身に覚えは到底ないのだが、気付かない内に何かしでかしたのかと考えるがそうではなく。
　たまたま地蔵がブチ切れた瞬間を目の当たりにしたため、要はちょっとびびっているといった方が正しいかもしれない。普段にこにこと笑っている人物が唐突に無表情になったり怒りに満ちた形相をしたりすれば怖い、というやつである。
　今度会ったら謝っておこうと口にする地蔵は、桶の中の水を全て巻き切っていた。

「よし、巻き切った。じゃあ中入りましょか達也はん」
「だな。流石に直射日光だといろいろあるから……」

　思わず両手を当てて拝みたくなるゆえ。地蔵自身が拝まれるのを嫌っているゆえ決してしないが心の中では両手を合わせて拝む達也であった。