【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ11)

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　管理人が今入院ということは今の管理人、の代理は孫である川田さんだろう。
　そう判断した地蔵は依頼を受けにきた旨を川田さんに伝えたところ、びっくりしたように地蔵を見た。

「え、貴方みたいな小さな子供が？」
「せや。大丈夫、見た目がこんなんでも確りと解決して差し上げるさかい、安心してくださってええよ」

　にっこりと笑った地蔵に、目を瞬かせた川田さん。少し考えたのちに、お願いしますと頭を下げた。

「でも、貴方みたいな子供一人だと心配だから、保護者として一緒に行きます」
「……うーん、まぁいいか。そのワンちゃんが一緒なら構いまへんよ」

　人手は多いに越したことはない。まぁただ、本当に獲物を狙うかのように舌を出してじっと見てくるあの犬の目がなかなかに恐怖なのだが、そこは我慢すべきことだと自分を叱咤させた地蔵。
　時刻は午前7時。地蔵は川田さんとタローを連れてエレベーターで4階に上がる。一瞬重量オーバーの警告が鳴るかどうか懸念を抱いた地蔵だが、杞憂で済んだ。そのまま4階に上がり、件(くだん)の部屋である404号室の前までやってきた。

「ここやね」

　茶封筒の中に入れておいた鍵を差し込み、開ける。
　途端に、地蔵の耳には何かを引っ掻くような音が聞こえてくる。川田さんを見れば川田さんも聞こえているらしい。何の音？と小首を傾げていた。

「川田はんはワンちゃんと一緒に玄関で待機しといてください」
「え、でも」
「大丈夫や。自分、多少腕っ節はあるんで」

　力こぶを見せるように腕を上げた地蔵は靴を草履を脱ぐと部屋の中へと入った。
　部屋は2DK、そこそこ都会で駅からも程よく近い場所に立地。値段は多少かかるが条件としては住むことを考えると良い物件だと言えよう。
　隈(くま)なく部屋を見て回るが怪異である地蔵からして特に禍々しい気配等は感じなく。どちらかといえばベランダの前で哀愁を漂わせる何かがいるぐらいだろうか。

「……」

　地蔵が見上げた先に居たのは悲しそうな面持ちの年若い女性。身体は薄らと透けている。いわゆる幽霊に属するものだった。
　見目麗しい表情には似合わぬその表情に、地蔵はどうしたのかと尋ねた。

『────────……』
「……そうか、あんさん、そいつのことは恨んでないん？」

　女性が説明した事情を踏まえて、地蔵は尋ねた。女性は困ったように笑って、それから首を横に振った。恨んでいないらしい。