【路地裏の百物語】浮世の沙汰は諸行無常【派生作品】 (ページ10)

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　そのような早朝に訪問する輩を人間は迎え入れるだろうか？約束や特に気にしない人物であれば迎え入れるかもしれないが、世間一派論からして普通早朝6時半の訪問者を迎え入れる奇特な人間はまぁいない。
　ここまで言えばわかるだろうが、結果的に管理人は出てこなかった。

「……流石に非常識過ぎやったか」

　うーんと腕を組み悩むこと少し。出直そうかと考えた矢先のことである。

「！」

　背後から迫る何かの足音。音からして四足歩行のモノ。
　ばっと地蔵が振り返えった時にはもう遅く。

「ひぎゃぁああ!!」

　視界一杯に広がるものはモフモフしたモノ。人懐っこそうな大型犬、おそらくゴールデンレトリーバーが地蔵に襲い掛かっていた。否、乗っかられていた。

「タロー、急に走り出してどう……ぎゃあああぁぁすみませんーーーー!! タロー!! 早くその子から退きなさいーーーー!!!!」

閑話休題。

「本っっっ当にすみませんでしたーーーー!!!!」

　101号室内。
　目の前にて華麗な土下座を披露する人物はこのマンションの管理人の孫、大学生2年生の川田さんだった。その傍らには獲物を見る、いやオモチャを見るかのような目でじっと見てくるゴールデンレトリーバーことタローが座っている。

「あははは……元気なワンちゃんや……」

　あの後、無事に救出された地蔵は涙ながら川田さんによって差し出されたタオルで涎でベトベトになった顔面を拭きつつ、タローを見て顔を引きつらせていた。
　あの顔は絶対また狙っている顔だと。

「いやもうホント、この子、なんでか知らないのですけど、時々歯止めがきかないくらいテンションが上がって人を押し倒してしまう時があるんです。御近所さんの、あの背の高い白いワンピを着た綺麗なお姉さんもよくタローの被害に遭われて……」
「……」

　沢子がドジっ子属性と言えばいいのか、それともこの犬が怪異を識別して襲っていると言えばいいのか。ただ言えることは、この犬は怪異に対してのみ異常な行動を取ることだろう。でも地蔵は思う。涎塗(まみ)にされるのは勘弁願いたい、と。

「えぇっと、管理人さんは？」
「お爺ちゃんはちょっと前にぎっくり腰になってしまって、今入院中です」
「ぎっくり腰で入院!? どんだけ酷くやったんです!?」

　思わず関西出身の性(さが)が出てしまい、鋭いツッコミを入れてしまう。
　でもぎっくり腰で入院ってなかなかの、はず。